出産手当金はいつ・いくらもらえる?計算方法や申請の方法について解説
子育て
2025.06.05

出産を控える女性にとって、休業中に収入が減るのは大きな不安ですよね。そこで心強い味方となるのが出産手当金です。出産手当金は、産前産後の休業期間中の収入を補償する大切な制度ですが、受給資格や申請方法など、事前に確認すべき点が多くあります。この記事では、出産手当金の支給対象、金額の計算方法、支給時期、具体的な申請方法まで、わかりやすく解説していきます。安心して出産に臨むためにも、ぜひ参考にしてください。
<この記事でわかること>
- ・出産手当金とは、出産のための休業期間中、収入を補償するため健康保険から支給される給付金
- ・支給対象と条件は、被用者保険(健康保険)に加入している女性従業員であり、出産を理由に休業しその間の給与が支給されない、または減額されている方
- ・申請方法は、健康保険出産手当金支給申請書を用意し、氏名や銀行口座などの必要事項を自分で記入したうえで、医療機関と勤務先に残りの項目を記入してもらい、健康保険組合へ提出
- ※本記事は2025年4月時点の制度内容に基づいて作成しています。制度内容は変更になる場合があります。
目次
出産手当金とは
出産手当金とは、出産のために会社を休む女性従業員に対して、その間に給与が支給されない場合に、健康保険から支給される給付金です。
労働基準法第65条では、女性従業員の出産に関して以下のような休業期間が定められています。
産前休業
出産予定日の6週間前からは(多胎妊娠の場合は14週間前から)女性が休業を請求した場合に、その者を就業させてはいけません。
産後休業
出産後8週間は就業禁止(産後6週間を経過した後は、労働者本人が請求し医師が支障ないと認めた業務に就かせることが可能)
しかし、この産前産後の休業期間中の給与支払いは法律で義務付けられておらず、無給となる場合があります。出産手当金は、出産時の収入減少をサポートしてくれる心強い制度です。
出産育児一時金との違い
出産手当金が「産前産後休業中の収入減を補う」のに対し、出産育児一時金は「出産にかかる費用をサポート」するためのものです。
会社などで働く女性(被保険者本人)のみが対象である出産手当金に対し、出産育児一時金は国民健康保険や健康保険に加入している全ての方が対象です。そのため、出産育児一時金は健康保険の扶養家族となっている配偶者も受け取ることができます。
支給金額も異なり、出産手当金は1日あたりの給与(標準報酬日額)の3分の2の金額に、対象となる日数分(支給期間分)を乗じた金額を一括または複数回に分けて受け取れるのに対し、出産育児一時金は、令和5年4月より「出産1児につき一律50万円」(産科医療補償制度の対象となる出産の場合)が支給されます。
このほかにも、子どもが生まれたらもらえる給付金や助成金はいくつかあります。しかし、いずれも自動的に支給されるわけではなく、必ずご自身で申請する必要があります。受け取り損ねることのないよう、こちらの記事も参考にし、申請漏れがないようにしましょう。
出産手当金をもらえる条件
出産手当金は、出産を控えた休業中の女性従業員の収入を補う大切な制度ですが、誰でも無条件でもらえるわけではありません。支給を受けるためには、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。それぞれの条件について確認していきましょう。
健康保険に加入している (被保険者である) |
妊婦本人が、勤務先の健康保険に加入している(被保険者である)ことが条件です。正社員はもちろん、健康保険に加入していればパートやアルバイトの方も対象となります。 |
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妊娠4ヵ月以降の出産 | 健康保険で定義されている「出産」とは、妊娠4ヵ月(85日)以降の出産のことをいい、流産や死産、人工妊娠中絶も含まれます。85日未満の場合は対象外です。 |
出産のために休職している | 出産のために休職し、給与を受け取っていない方が対象です。ただし、産休中に給与を受け取る場合でも、出産手当金より少ない場合は差額を受給できます。出産を機に退職する場合でも、要件を満たせば受給可能です。 |
- ※なお、「国民健康保険に加入している方」、「健康保険の扶養に入っている方」、「健康保険の任意継続制度を利用している方」「休業中に給与を受け取っている方」は、出産手当金が対象とならないので注意をしましょう。
退職後に出産手当金がもらえる条件
通常、健康保険の資格を失うと出産手当金は受給できなくなりますが、以下の条件を満たせば、退職後も受給が可能です。妊娠・出産にともなう退職を検討する場合は、これらの条件を事前に確認しておきましょう。
- ・退職時までに被保険者期間が1年以上継続していること
- ・退職日時点で既に休業中であること
しかし、退職当日に出勤している場合は、翌日以降の受給資格が失われます。また任意継続被保険者期間は1年の継続期間に含まれないので注意が必要です。
出産手当金はいつから・どれくらいもらえるのか

出産手当金の受給期間や支給額は、出産を控えた女性にとって大きな関心事でしょう。産前産後の休業期間中の収入を確保するため、いつから、どのくらいの金額が支給されるのか事前に知っておくことが安心した出産準備につながります。ここでは、出産手当金の詳しい計算方法や振り込まれる時期ついて解説していきます。
出産手当金の計算方法
出産手当金の1日あたりの支給額は以下の計算式で算出されます。
【支給開始日※以前の継続した12ヵ月間の各月の標準報酬月額を平均した額】÷30日×2/3
- ※支給開始日とは、一番初めに給付が支給される日のことです。
以下で詳しく見ていきましょう。
標準報酬日額を計算する
標準報酬日額とは簡単に言うと「1日あたりの給与」のことをいいます。出産手当金の支給が始まる日(支給開始日)の前の1年間(12ヵ月)にもらっていた給与の合計を、12ヵ月で割り算し、さらにそれを30日で割ることで標準報酬日額が計算できます。
(例)支給開始日前1年間の給与合計額が360万円だった場合
360万円 ÷ 12ヵ月 ÷ 30日 = 1万円
例の場合、標準報酬日額は1万円となります。
出産手当金の日額を計算する
1日あたりの出産手当金の支給額は、標準報酬日額に2/3 をかける(1円未満四捨五入する)ことで、金額が計算できます。
(例)標準報酬日額が1万円の場合
1万円 × 2/3 = 約6,667円
例の場合、1日に受け取れる出産手当金の金額は約6,667円になります。
出産手当金の計算方法②(支給期間の算出)
出産手当金は、基本的に出産予定日の42日前(多胎妊娠は98日前)から産後56日までの期間で、実際に仕事を休んだ日に支給されます。なお、出産当日は産前期間に含まれます。
また、出産が予定日より遅れた場合、その遅れた期間についても出産手当金が支給されます。
出産手当金の計算方法③(総支給額の算出)
出産手当金の総額は、出産手当金の計算方法①でご紹介した日額に、出産手当金の計算方法②でご紹介した支給期間をかけて算出することができます。
例)支給開始日前1年間の給与合計額が360万円だった方が、出産予定日に出産した場合の出産手当金の総額
6,667円(日額)× 98日間(支給期間)= 653,366円(総支給額)
- ※休業期間中に給与の支払いがあってもその給与の日額が、出産手当金の日額より少ない場合は、出産手当金と給与の差額が支給されます。
出産手当金が振り込まれる時期
出産手当金は、申請書に不備がなければ、提出から1~2ヵ月程度で指定口座に一括で振り込まれます。申請は、産前・産後など複数回に分けて行うことも可能ですが、その都度、会社に証明してもらう必要があります。手続きを簡略化するため、多くの場合、産後休暇が明けてからまとめて申請するのが一般的です。
出産手当金の申請方法
出産手当金の申請は、初めての方にとっては、いつ、どのような手続きが必要なのか分かりにくいものです。ここでは、申請に必要な書類や手続きの流れについて、分かりやすく解説していきます。
健康保険出産手当金支給申請書を入手する
出産手当金の申請には、「健康保険出産手当金支給申請書」が必要です。この申請書は、会社から受け取るか、加入している健康保険組合の公式サイトからダウンロードできます。
申請書には、被保険者番号、氏名、住所などの基本情報のほか、出産手当金の振込先口座や申請内容などを記入する欄があります。事前に記入できる項目については早めに記入し、不明な点がある場合は、会社の担当者などに確認をしておくとよりスムーズでしょう。
産院に申請書を書いてもらう
出産手当金の申請には医師または助産師による証明が必要です。産休中や出産で入院している際に申請書を医療機関に渡し、出産予定日や実際の出産日など、必要な情報を記入してもらいます。なお、医療機関によっては文書料が発生することもあるため、事前に確認すると安心でしょう。
勤務先に申請書を書いてもらう
被保険者自身と医療機関で記入が必要な項目をすべて埋めた申請書は、勤務先に提出しましょう。
申請書は会社が記入した後、健康保険組合に郵送されます。提出期限など、詳しいことは事前に会社に確認しておくとよいでしょう。
まとめ
出産手当金は、出産による休業期間中の収入を補償する健康保険の制度です。対象は健康保険に加入している女性従業員で、産前42日(多胎妊娠は98日)から産後56日までの期間について、1日あたり標準報酬日額の3分の2が支給されます。申請から支給までは1~2ヵ月程度要するため、計画的な手続きが大切です。退職後でも一定の条件下で受給可能なので、退職を検討している方も必ずチェックしましょう。
妊娠中に、出産後にもらえるお金の計算や申請時期を事前に確認することで、経済的な不安が軽減します。安心して出産と育児に臨むために、出産手当金を有効活用していきましょう。
監修者プロフィール
バースコンサルタント代表 (助産師・看護師・保健師)
古市 菜緒(ふるいち なお)
助産師として1万件以上の出産に携わり、8千人以上の方を対象に産前・産後のセミナー講師を務める。海外での生活を機にバースコンサルタントを起ち上げ、現在「妊娠・出産・育児」関連のサービスの提供、アドバイスを行う。関連記事の執筆・監修、商品・サービスの監修、産院のコンサルタント、国・自治体の母子保健関連施策などに従事。現在2児の母。