第200回 48兆円にのぼる医療費、私たちはどれくらい負担している?
新社会人のための経済学コラム2026年10月8日
医療機関を受診したとき、患者は医療費の一部を窓口で支払います。残りの費用は、保険料や公費などを財源とする医療保険制度を通じて支払われます。給与明細などに記載される健康保険料や、国民健康保険の保険料は、こうした医療費を支える大切な財源の一つです。近年、高齢化や医療技術の進歩などを背景に医療費が増加し、現役世代の保険料負担が課題となっています。日本では、どのような医療に、どれだけのお金が使われているのでしょうか。
日本の医療費はどれくらい?
2023年度の国民医療費は48兆915億円で、3年連続で過去最高となりました。
国民医療費とは、1年間に日本国内の医療機関などで保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を、厚生労働省が推計したものです。
図1で示すとおり、医科診療や歯科診療にかかる診療費、薬局調剤医療費、入院時の食事・生活医療費、訪問看護医療費等が含まれます。保険診療の対象とならない評価療養(先進医療等)、選定療養(特別の病室への入院、歯科の金属材料等)等に要した費用は含まれません。また、傷病の治療費に限られるため、正常な妊娠・分娩に要する費用、健康の維持・増進を目的とした健康診断、予防接種等に要する費用、固定した身体障害のために必要とする義眼や義肢等の費用も含まれません。
図1 国民医療費の範囲
医療費はどれくらい増えている?
国民医療費は増加しています。2023年度の国民医療費を診療種類別にみると、最も多いのは医科診療で、約34.5兆円と全体の71.8%を占めます。医科診療の内訳は、入院が約17.9兆円(37.1%)、入院外の診療が約16.7兆円(34.7%)です(図2)。次いで薬局調剤が約8.5兆円(17.6%)、歯科診療が約3.3兆円(6.9%)です。
2022年度と比べると、国民医療費は約3%増加しました。診療種類別にみると、医科診療および歯科診療はそれぞれ約2%、薬局調剤は約6%増加したのに対し、訪問看護は約24%と大幅に増加しました。訪問看護による医療費は、国民医療費総額と比べると小さいですが、近年大きく増加しており、医療の提供体制が変化していることがうかがえます。
図2 国民医療費の診療種類別内訳(2023年度)
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(出典)厚生労働省「令和5(2023)年度 国民医療費の概況」より筆者作成
医療費の増加要因を分析すると、高齢化の影響が0.7%、人口減少の影響がマイナス0.5%、診療報酬改定等の影響がマイナス0.64%でした。一方、これらを除いた「その他」の要因による伸びは3.4%で、医療の高度化や受療行動の変化などが含まれます(※1)。
医療費は、誰が負担している?
医療費は、患者による自己負担のほか、被保険者や事業主が支払う保険料、公費などで賄われています。
では、年齢によって、医療費やその負担額にはどのような違いがあるのでしょうか。図3は、年齢による1人当たりの平均的な医療費と負担額を示したものです。一般に、年齢が高いほど、平均的な医療費が高くなります。一方、被保険者が負担する保険料は、収入などに応じて決まるため、現役世代の負担が大きくなる傾向があります。
図3 年齢による医療費と負担額の違い(2023年度)
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(注)
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1.1人当たりの医療費と自己負担は、それぞれ加入者の年齢階級別医療費及び自己負担をその年齢階級の加入者数で割ったものである。
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2.自己負担は、医療保険制度における自己負担である。
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3.1人当たり保険料は、被保険者(市町村国保は世帯主)の年齢階級別の保険料を、その年齢階級別の加入者数で割ったものである。
また、年齢階級別の保険料は健康保険被保険者実態調査、国民健康保険実態調査、後期高齢者医療制度被保険者実態調査等を基に推計した。 -
4.端数処理の関係で、数字が合わないことがある。
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(出典)厚生労働省「医療費の見える化について」
(2026年6月22日)より転載
患者の自己負担額に注目すると、2023年度の推計では、生涯医療費(※2)約2,840万円のうち、患者の自己負担額は約424万円(15%)で、残る約2,416万円(85%)は医療保険給付で賄われるとされています。
医療費の増加にどう対応する?
医療費の増加に対応するには、医師や看護師などの人的資源や医療機関などの限られた医療資源を有効に活用していくことが重要です。今後も、高齢化や医療技術の高度化(※3、※4)などを背景に、医療にかかる費用の増加が見込まれています。
こうしたなかで、病気の早期発見や重症化の予防を進めるとともに、患者の状態に応じて、入院、外来、在宅医療などを適切に組み合わせていくことが求められます。また、医療DXもそのための取り組みの一つです(※5)。電子カルテ情報や処方情報を共有することで、検査や投薬の重複を減らすことが期待されています。私たち一人ひとりも、定期的に健康診断を受けるなど、日頃から健康を意識し、必要なときには適切に医療機関を受診することを通じて、社会全体で医療を持続可能なものにしていくことが重要でしょう。
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(※1)厚生労働省「厚生労働省 医療保険に関する基礎資料 令和5年度 医療費の動向(国民医療費、後期高齢者(老人)医療費の動向) 」
(2024年9月25日)
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(※2)生涯医療費とは、その年に生まれた0歳の人が平均で生涯にどれくらいの医療費が必要となるかを表したものです。
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(※3)内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」
(2018年5月21日)
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(※4)厚生労働省「全国高齢者医療主管課(部)長及び国民健康保険主管課(部)長並びに後期高齢者医療広域連合事務局長会議 保険局高齢者医療課説明資料」
(2026年3月11日)
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(※5)厚生労働省「医療DXの推進に関する工程表について(報告)」
第100回社会保障審議会医療部会資料(2023年7月7日)
(ニッセイ基礎研究所 村松 容子)
筆者紹介
村松 容子(むらまつ ようこ)
株式会社ニッセイ基礎研究所、保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
研究・専門分野:健康・医療、生保市場調査
