第198回 転売対策にマイナンバーカード?その理由とは?

新社会人のための経済学コラム

2026年8月13日

はじめに

先日、一部のポケモンカードの抽選・オンライン販売にて、転売対策としてマイナンバーカードの利用を検討することが、株式会社ポケモンから発表されました※1。また、チケット販売においても、同様の実証実験が行われています。
「なぜカードゲームやチケットの購入にマイナンバーカードが必要なのだろう」と疑問に思った人もいるかもしれません。マイナンバーカードが転売対策として活用される背景には、その政策的な変化や独特な機能性があります。本稿では、政策の現在地を整理したうえで、マイナンバーカードがなぜ転売対策と結びつくのかを解説します。

マイナンバーカードとは何か?保有率はどれくらいなのか?

マイナンバーカードとは、住民票を有する全ての人に対し、本人の申請に基づき交付される個人番号カードです。2026年6月末時点で、人口に対する保有率※2は約83.4%で、10人中8人以上が保有する計算になります(図表1)。

(図表1)マイナンバーカードの交付・保有率と伸び

マイナンバーカードの交付・保有率と伸び 総務省「マイナンバーカード交付状況について」よりニッセイ基礎研究所作成

  • (注)
    対前月比交付率の伸びは、対象月の交付率とその前月の交付率の差。
    また、対前月比のうち、2020年以前は対前回公表比の数字。
    保有率は、交付数から死亡・有効期限切れ・返納などの理由によりカードが廃止された数を引いた数の人口に対する割合
  • (資料)
    総務省「マイナンバーカード交付状況について」よりニッセイ基礎研究所作成

その土台にはマイナンバー制度があります。行政の効率化や国民の利便性向上、公平・公正な社会の実現を目的に、住民票を有する全ての人に12桁の個人番号を付与する制度です。マイナンバーカードは、個人番号を証明するための顔写真付き身分証明書であり、券面には個人番号や顔写真、基本四情報※3などに加え、後述の本人確認等で用いるICチップなどを有しています。本稿のテーマとの関係で重要なのは、マイナンバーカードの本人確認機能です。マイナンバーカードのICチップに搭載された電子証明書(オンライン上で本人であることを証明する仕組み)を利用することで、対面だけでなく非対面の状況でも精度の高い本人確認を行うことができます。これにより、従来は対面で行っていた様々な行政手続きをオンラインで完結させることが可能となります。
こうした機能はデジタル社会の基盤インフラとなり得ることから、政府はマイナンバーカードを「デジタル社会のパスポート」と位置付け、ほぼ全国民への普及を目標に掲げてきました※4
長らくカードの交付率が低迷したこともあり、当初の政策は国民の保有を促すものが中心でした。ポイント還元を行ったマイナポイント制度や、健康保険証の廃止方針の表明はその一例と言えます。こうした施策は、交付率が大きく伸びる契機となりました(図表1)。

現在のマイナンバーカード政策はどのようなものなのか?

政府は現在、マイナンバーカードを「持ってもらう」段階から「使ってもらう」段階へ政策の重点を移しています。保有はしていても使わない、または使う頻度が限定的という人が一定数存在するためです。デジタル庁によれば、情報流出への不安などから、マイナンバーカード保有者のうち持ち歩いている人の割合は67.2%に留まっています(2026年2月時点)※5。また、上昇傾向にはあるものの、2026年4月分実績でマイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)の利用率は68.2%でした※6。そこで政府は利用シーンの拡大に力を入れており、この一つに民間ビジネスでの活用の推進があります。マイナンバーカードは対面・非対面を問わず本人確認ができます。政府はデジタル社会の実現に向けた重点計画※7において、この機能を民間事業者に開放し、その利用の普及を図ることを掲げています。転売対策も、こうした民間ビジネスでの利用に含まれます。

なぜマイナンバーカードが転売対策として使われるのか?-エンタメ領域の例-

大きな要因は、マイナンバーカードがオンライン上でも厳格に本人確認ができるため、複数アカウントによる買い占めを抑制しやすい点にあります。
例えば、音楽やスポーツなどのエンタメ領域では、チケットの高額転売に悩まされてきました。高額転売は、正規価格で購入したいファンの機会を奪い、主催者側の価格設計や顧客体験にも影響を及ぼしかねません。チケット不正転売禁止法による規制はあるものの、摘発の難しさも指摘されてきました※8
運営者側でも、購入制限や入場時の本人確認といった対策が実施されています。ただし、架空名義の複数アカウントや自動購入プログラムによる買い占めは依然として存在します※9。また、本人確認を徹底するほど入場効率が下がるという課題も指摘されています※10
こうした課題の克服には、厳格かつ効率的な本人確認の仕組みが必要です。ここにマイナンバーカードとの相性の良さがあります。例えば、オンライン申込時にマイナンバーカードによる本人確認を要件とすれば、同一人物が複数アカウントを作成して購入することが難しくなります。
実際、デジタル庁は、申込時のマイナンバーカード認証を要件とし、コンサートチケットを対象に、買い占めを防止する実証実験を実施しています※11。また同実験では、マイナンバーカードで認証したアカウントに顔写真を登録し、顔認証入場とすることで、なりすましの防止と入場運営の効率化を両立できるかを検証しています。
このようにエンタメ領域では、オンライン上の本人確認機能をベースに転売対策が検討・実施されていることが分かります。なお、冒頭のポケモンカードはチケットとは異なる商品販売の事例ですが、人気商品の販売でも、同じように複数アカウントによる買い占めを防ぐ目的で活用が検討されていると考えられます。

今後への示唆

これまで見てきたように、転売対策にマイナンバーカードが注目される最大の理由は、オンラインでも厳格な本人確認ができる点にあります。こうした特徴は転売対策だけでなく、今後の民間サービスでの活用拡大にもつながる可能性があります。一方で転売対策としての利用促進には、課題もあると言えます。例えば、カードを取得する自由への配慮やプライバシーに対する不安の払拭です。
前述のとおり、マイナンバーカードの保有率は8割を超え、利用を促す段階にあります。ただし裏を返せば、2割は依然として保有していません。任意取得のはずのマイナンバーカードが事実上の購入条件となれば、反発も予想されます。
プライバシーや情報管理への不安も課題になり得ます。前述のとおり、情報流出の懸念はカードの携行を妨げています。また、銀行口座とマイナンバーを紐付け迅速な給付を受ける「公金受取口座制度」でも、情報流出やプライバシーへの不安から登録を見送る人が存在します※12。依然として制度自体への不安の声は残っていることから、転売対策でも同様の懸念が生じる可能性があります。
このように考えると、転売対策としての利用が広がるにつれて、利便性から受容されるのか、不安として敬遠されるのか、人々がどのように受け止めるのかが、今後より明確になっていくと思われます。転売対策は、マイナンバーカードの民間サービスでの活用を広げるきっかけになり得ますが、その成否は、利便性とカード取得の自由、プライバシーへの配慮をどこまで両立できるかに左右されるのではないでしょうか。

  • ※1
    任天堂 第86期定時株主総会 質疑応答(要旨)Q15 2026-07-01
    株式会社ポケモン ポケモンカードゲームの商品販売・イベントにおけるマイナンバーカードを使用した本人確認システムの導入について別窓で開く
    2026-07-13アクセス
  • ※2
    保有率は、交付数から死亡・有効期限切れ・返納などの理由によりカードが廃止された数を除いた現保有枚数の人口に対する割合。一方、後述の交付率は、再交付、更新を含むこれまでに交付されたカードの累計枚数の人口に対する割合。2023年4月末までは交付率のみ公表、2025年2月末以降は保有率のみ公表のため、混在している
    総務省 マイナンバーカード交付状況について 2026-07-05
  • ※3
    氏名、性別、住所、生年月日のこと
  • ※4
    デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和4年度版)2022-06-07
  • ※5
    保有をしているが持ち歩かない理由として、60.3%が「落とした場合に不安(情報流出が不安)だから」としている。デジタル庁 マイナンバーカードの普及と利活用の状況に関するインターネットによるアンケート調査(年齢階層準拠)の結果(令和7年度2月)2026-03-24
  • ※6
    厚生労働省 第212回社会保障審議会医療保険部会 マイナ保険証の円滑な利用について 2026-06-18
  • ※7
    デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和8年度版)2026-07-22
    デジタル庁 デジタル社会の実現に向けた重点計画(令和7年度版)2025-06-13
  • ※8
    川崎大輝 WBCチケット20倍で転売、購入者「どうしても見たかった」…不正転売が消えない背景とは 読売新聞社 2023-04-14
  • ※9
    西浦健登 「大ごとになるとは」法規制も後絶たない宝塚チケット不正転売、7倍横流し女の行状と後悔 産経新聞社 2026-01-02、奥窪優木 転売ヤー闇の経済学 新潮選書 2024-11-20
  • ※10
    経済産業省 音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書 2024-07
  • ※11
    デジタル庁 令和7年度マイナンバーカードを活用したエンタメDX実証実験 2026-03-27
  • ※12
    公金受取口座を登録しない、または登録したが削除した人は全体の28.3%。うち、30.0%が「情報流出が怖いから」、22.7%が「国に口座情報を見られるのではと不安だから」と回答している。
    デジタル庁 マイナンバーカードの普及と利活用の状況に関するインターネットによるアンケート調査(年齢階層準拠)の結果(令和7年度2月)2026-03-24

(ニッセイ基礎研究所 河岸 秀叔)

筆者紹介

河岸 秀叔(かわぎし しゅうじ)

河岸 秀叔(かわぎし しゅうじ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、総合政策研究部 研究員
研究・専門分野:経済政策、労働市場

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