第193回 意外と身近?中国コンテンツの現在地と可能性

新社会人のための経済学コラム

2026年3月12日

中国コンテンツって、どんなイメージ?

中国のコンテンツと聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。中国では、国家広播電視総局による映画やテレビ番組等の審査制度や、国家新聞出版署によるゲームのライセンス発行制度などがあります。そうした環境のもとで、どのような作品が生み出されているのか、具体的なイメージを持ちにくい人もいるかもしれません。

気づけば広がっている、中国発コンテンツ

実際には、映画監督の張芸謀や賈樟柯、小説家の莫言、アクション俳優のジャッキー・チェンなど、世界で高い評価を受ける「大御所」的存在が以前から活躍していますが、あくまで彼ら個々人の評価にとどまっていました。しかし、近年になり、中国発のコンテンツは、音楽や小説、アニメ、ゲームなど幅広い分野で、裾野の広がりと質の向上が進んでおり、世界で着実に存在感を高めています。例えば、米国のオバマ元大統領が愛読していたことでも知られるSF小説『三体』は、SF版ノーベル賞とも言われるヒューゴー賞を受賞し、日本では2019年に邦訳版が出版され、24年5月には日本国内の累計発行部数が100万部を突破しました。また、アニメ映画『羅小黒戦記 ぼくが選ぶ未来』は、日本でも2020年に公開・放送され、一定の興行成績を収めました。このほか、「原神」や「崩壊:スターレイル」といったゲームも、中国企業による人気作品です。もしかすると、中国発だと特に意識せずに楽しんでいる作品も、すでにあるかもしれません。

ヒューマンメディアの調査によれば、中国のコンテンツ市場(映像・音楽・ゲーム・書籍等を含む)は、2011年の6兆円から2024年には41.9兆円と、7倍の規模へと拡大しています(図表1)。2024年時点で、米国(91.7兆円)に次いで2位で、既に日本(13.7兆円)を上回る規模となっています。同調査は円建てで算出されており、対ドル円レートは、2011年の約80円台から2024年には約150円台へと変動しているため、円安の影響も一定程度含まれていると考えられます。ただ、それを差引いても、高い成長が続いてきたことは確かでしょう。こうした急成長の背景には、ミレニアル世代やZ世代といったコンテンツ消費の中核層の台頭による需要の拡大、アニメやゲームなどの産業振興による制作人材の増加に伴う労働供給の拡大のほか、スマートフォンや動画配信プラットフォームの普及による流通コストの低下など、需給両面の要因があると考えられます。

質の面ではどうでしょうか。コンテンツ発展に欠かせない著作権保護を巡る環境は、著作権重視で有名なディズニーによるディズニーランド開園のタイミングを参考に、日本と中国との間でおよそ30年程度の差があるとの見方があります(雑誌『広告』(2020))。コンテンツの実例で比較すると、日本の代表的ゲーム「スーパー・マリオ」が1985年発売されたのに対して、中国では、プレイヤーが広大な仮想世界を探索するオープンワールド型RPG「原神」が2020年にリリースされ、世界的ヒットとなりました。また、アニメでは、日本の『風の谷のナウシカ』(1984年公開)と同様に、人間と自然の関係の在り方に問いを投げかけた『羅小黒戦記』が2011年から配信されました。時代環境が異なるため単純な比較は難しいものの、コンテンツ発展のタイミングという観点では、日本がこれまでに経験してきた過程と重なる側面もあるのかもしれません。

(図表1)日本・米国・中国のコンテンツ市場規模

(図表1)日本・米国・中国のコンテンツ市場規模

(資料)株式会社ヒューマンメディア「2024年の日本と世界のコンテンツ市場の規模と日本のコンテンツの海外売上の調査結果発表」、内閣官房「コンテンツ産業官民協議会(第1回)基礎資料」(原出所:株式会社ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース2024速報版」)より、ニッセイ基礎研究所作成

中国コンテンツの行方

今後は、どのように発展するでしょうか。中国は、自動車や半導体などの製造業の場合、模倣・キャッチアップ期、内需拡大型成長期、輸出競争力獲得期という段階を概ね経てきました。コンテンツ産業も、同様の経過をたどるとすれば、日本や韓国、米国などコンテンツ先進国との距離を急速に縮める可能性があります。

他方、検閲や規制の存在は、今後も制約要因となるでしょう。また、中国の伝統文化や価値観を世界に発信するためのツールとしてコンテンツを活用しようとする動きもあり、神話や歴史など中国的要素を前面に出した作品が生まれやすい傾向にあります。2025年に世界的にも高い興行収入を記録した中国の冒険アニメ映画『ナタ2』も、中国神話に登場する少年英雄・哪吒(ナタ)を題材とするなど、中国的要素が色濃く盛り込まれており、収益のほとんどは中国国内市場によるものでした(図表2)。海外でも広く受け入れられている米国や日本の映画とは、やや異なる特徴があることが分かります。

もっとも、制約の有無により作品の魅力が規定されるといった単純な見方だけでは、中国のコンテンツを捉えきれません。冒頭で紹介した作品のように、当局による審査やライセンス認可といった制約がある環境でも、国や文化を意識せずに楽しめる作品が着実に生まれているのも事実です。そうした固有の制作環境の中で工夫を重ねてきた中国のクリエイターたちの試行錯誤が、新しい魅力につながる可能性もあるでしょう。

コンテンツは、娯楽であると同時に、経済学の視点から見ると、知的財産制度、人的資本、プラットフォーム経済、産業政策など、複数の経済要素が交差する成長産業としての側面も有しています。中国コンテンツの動向は、巨大市場の内需拡大、規制とイノベーションの関係、さらには文化が経済価値を生み出す仕組みを考えるうえで重要な事例といえます。コンテンツを入り口に、その背後にある経済構造に目を向けることは、社会を立体的に理解する手がかりになるでしょう。

(図表2)日米中の代表的な映画の興行収入ランキング

(図表2)日米中の代表的な映画の興行収入ランキング
  • (注)
    公開以来の累計興行収入による順位(2026年2月4日時点)。北米は米国およびカナダ。
  • (資料)
    Box Office Mojoより、ニッセイ基礎研究所作成

<参考文献>

(ニッセイ基礎研究所 三浦 祐介)

筆者紹介

三浦 祐介(みうら ゆうすけ)

三浦 祐介(みうら ゆうすけ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 主任研究員
研究・専門分野:中国経済

Copyright © 日本生命保険相互会社 2025-3504G,サステナビリティ経営推進部
今日と未来を、つなぐ。NISSAY 日本生命