第189回 若者だけじゃない?会社の飲み会に行きたくないその理由(ワケ)とは
新社会人のための経済学コラム2025年12月18日
株式会社東京商工リサーチが実施した「2025年 お花見・歓迎会・懇親会に関するアンケート調査」(※1)によると、2025年に「お花見」「歓迎会・懇親会」を開催した企業は23.8%(5,628社中、1,345社)と、コロナ禍明け以降で最も低い水準となりました。
「お花見、歓迎会・懇親会」開催率推移
東京商工リサーチ調べ
出所:株式会社東京商工リサーチ「2025年お花見・歓迎会・懇親会に関するアンケート調査」より引用
この背景には、若者に限らず、もともと飲み会文化に否定的な人が多いことがあげられます。株式会社産労総合研究所が2021年に20~60代の男女を対象に実施した「飲みニケーションは好きですか?」(※2)という調査によれば、“好き派”は31.1%にとどまる一方で、“嫌い派”は68.8%と、約7割が職場での飲み会に否定的であることが明らかとなりました。
職場の飲み会は好きですか?
出所:株式会社産労総合研究所「独自調査:飲みにケーションは好きですか?」より引用
コロナ禍を経て在宅勤務やハイブリッドワークが広がり、仕事後の時間を家族や趣味など“自分のために使う”価値観が広がりました。こうした環境変化によって、勤務時間外に会社の人間関係を深めるためだけの飲み会に時間やお金を割く意義は薄れつつあるのではないでしょうか。その結果、会社の人間関係は淡白になりやすく、飲み会参加への優先度が下がるのも自然な流れと筆者は考えます。(※3)なにより、飲み会がなくても特段不都合がなかったという経験をコロナ禍で経たことも大きいようです。
一方で、飲み会自体には楽しさを感じないものの、参加しないことで不利益が生じる不安から、しぶしぶ参加している人も少なくありません。株式会社識学の調査によると、職場での飲み会参加について「強制参加」が5.3%、「任意だが強制に近い」が36.3%と、職場に“参加せざるを得ない空気”があることが示唆されています。
同時に、現代では、あえて酒を飲まないソバーキュリアスや、飲めない人はムリしなくてもいいというスマートドリンク(スマドリ)など、酒の消費に対する価値観も変化しています。SHIBUYA109 lab.が行った「Z世代のナイトタイムエコノミーに関する意識調査」(※4)によると、「まだお酒の得意不得意が分からない相手には“飲みに行こう”より“ごはん行こう”と誘うことが多い」が65.9%、「夜の時間帯のお出かけ・遊びをする場合でもお酒を飲まないことがある」が63.3%、「お酒のペースや注文、お店選びなどはお酒が飲めない人に合わせている」が59.6%と、飲酒は必須のコミュニケーション手段ではなくなっているのです。
©SHIBUYA109ENTERTAINMENT Corporation ALL Rights Reserved.
出所:SHIBUYA109 lab.「Z世代のナイトタイムエコノミーに関する意識調査」より引用
飲酒することが強要されることなく自身で選択することができるからこそ、酒の場へ行くこと自体も強要ではなく「選択」対象としてのフェーズに移行していると言えるのかもしれませんね。
ただし、この傾向は上司だからというわけではないようです。SHIBUYA109 lab.が行った別の調査である「Z世代の仕事に関する意識調査」(※5)においては、上司を含めた会社の飲み会は好きかどうかについて「好き」が33.4%、「苦手」が66.7%となる一方で、同期や同世代の同僚との会社の飲み会が好きかについては「好き」が50.8%、「苦手」が49.1%と、上司ほどは嫌ではないが、半数近くが同期や同僚と飲む事に対して前向きではないことがわかります。同世代だからといって、そこまで親しくない相手と仕事の後に会ったり、酒の場で話すというコト自体のハードルは下がるわけではないようです。
こうした流れを受けて、企業の中には飲み会に代わるコミュニケーション施策として、業務時間内の懇親会を実施する例もあります。しかし業務時間内の飲み会やお花見では、「勤務中に上司と酒席を共にする」という義務感が生じやすく、形式は“歓迎・親睦”でも実質は“業務の一部”として拘束力を帯びてしまいます。そうなると、上司の愚痴や自慢話に相槌を打つことや、先輩へのお酌といった行為さえも、「業務だから仕方ないよね」と受け入れざるを得なくなってしまう。その結果、本来は社員同士の交流を促すはずのイベントが、「やらされ感」に満ちたものになりかねません。コミュニケーションの機会を設けること自体は大事ですが、その設計にはより繊細な配慮が求められるでしょう。
では、歓迎会を「開く側」と「開いてもらう側」で受け止め方は違うのでしょうか。株式会社インテージが行った「第48回生活者インデックス調査」(※6)では、「歓送迎会を楽しみにしているか?」という問いにおいて、いずれの立場でも「楽しみにしていない」が4割ほどを占め、「楽しみにしている」は約3割にとどまりました。
歓送迎会に関する意識①:自分自身が「祝う側・送る側」
【データ】インテージ 生活者インデックス調査 全国 15~79歳 男女個人/約3,000
最新:第48回:2025年3調査/3,083回収
調査実施時期:2025年2月28日~3月3日
歓送迎会に関する意識②:自分自身が「祝われる側・送られる側」
【データ】インテージ 生活者インデックス調査 全国 15~79歳 男女個人/約3,000
最新:第48回:2025年3調査/3,083回収
調査実施時期:2025年2月28日~3月3日
費用負担や拘束時間などネガティブ要因として挙がる一方、楽しみにしている人は「人生で数少ない主役になれる機会」という“非日常感”を前向きに捉えているようです。確かに、転職や異動でもしない限り、自分が“主役”となる歓迎会は、その職場で人生に一度きりのものです。そう思うと、どこか特別な意味を帯びて見えてきませんか。
結局のところ、飲み会をどう感じるかは個人の価値観や環境によるところが大きいわけです。職場がどうしても入りたかった憧れの会社であったり、周囲との人間関係が良好であったり、単に皆でワイワイする雰囲気が好きであったり、お酒が好きだから、あるいは家に帰っても特にやることがないから、と会社の飲み会を楽しみにしている人がいるのも確かです。併せて、個人のプライオリティが優先され、時間やお金を無駄にしたくないと考える人がいるのも確かです。だからこそ、「皆が皆自分と同じように酒や飲み会が好きという訳ではない」と認識することが現代社会において大事なコミュニケーションの心構えなのかもしれません。
<参考・引用資料>
-
(※1)
-
(※2)
-
(※3)
-
(※4)
-
(※5)
-
(※6)
(ニッセイ基礎研究所 廣瀬 涼)
筆者紹介
