地方創生は、各地域の多様な魅力を確保し、持続的な社会を創生することを目指す取組で、2014年に開始されました。その目的は出生率の低下によって引き起こされる人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏(※1)への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持することです。
新社会人のための経済学コラム
第181回 石破首相が推進する地方創生2.0とは?
2025年3月13日
地方創生とは?
地方創生開始から10年間の振り返り
地方創生の開始から10年が経過しました。政府はこれまで地方創生について、「全国各地で地方創生の取組が行われ、さまざまな好事例が生まれたことは大きな成果と言える一方で、好事例が『普遍化』することはなく、人口減少や、東京圏への一極集中の流れを変えるまでには至らなかった。」と評価しています。
実際に、東京圏への一極集中の流れは依然として続いています。2015年から2024年までの10年間で、東京都の転出入超過数(転入者数―転出者数)は61.3万人増加し、全国で最も多くなっています(図表1)。続いて、神奈川県が19.9万人、埼玉県が17.1万人、千葉県が16.2万人の増加となり、転出入超過数の上位は東京圏が占めています。さらに、大阪府、福岡県、愛知県でも増加しましたが、それ以外の地域では減少しました。このように地方創生が始まった後も東京圏への人口流入は続いており、ほとんどの地方では人口が流出しています。
図表1【直近10年間の転出入超過数(2015年-2024年)】
- (注)日本人移動者数
- (資料)総務省「住民基本台帳人口移動報告」より筆者作成
東京圏への転入者数の内訳
地方創生の課題の一つは、若者の東京圏への転入です。総務省の「住民基本台帳人口移動報告」によると、2024年の東京圏への転入者のうち、20歳~24歳が24%と最も多く、次いで25歳~29歳が23%、30歳~34歳が13%、35歳~39歳が7%と続きました。20代が転入者のおよそ半数を占めています。
20代が東京圏へ転入する理由として、就職が考えられます。内閣府の「地域の経済2020-2021」によると、地元を離れて東京圏で就職した理由として「自分の能力や関心にあった仕事が地元で見つからなかったから」が男性では最も多く、女性では2番目に多く挙げられています。地元での就職を希望しながらも、希望に合う仕事が見つからず、やむを得ず東京圏での就職を選択する人が多いことが分かります。
また、「親元を離れて、一人で生活したかったから」が女性では最も多く挙げられています。この背景には、男性が働き、女性が家事を担うといった性別役割分担意識や、さまざまな場面に存在するアンコンシャス・バイアス(※2)が地方や親世代の方が強いとの指摘(※3)もあり、女性の地方離れが進んでいる一因と考えられます。
地方創生2.0の起動と5本柱
このような東京一極集中に対処し、地方創生を加速させるため、石破首相は2024年11月8日に「新しい地方経済・生活環境創生本部」を設置しました。首相は地方創生2.0の起動を最重要課題の一つと位置づけ、政府一丸となって取り組むことを表明しました。その後、12月24日には地方創生2.0の「基本的な考え方」が公表され、地方創生2.0の5本柱が明記されました(図表2)。
図表2【地方創生2.0の5本柱】
①安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生 |
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賃金の引き上げや働き方改革を通じて、若者や女性に選ばれる地方(=楽しい地方)の創出 |
②東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散 |
企業や大学の地方分散や政府機関の移転を通じて、東京圏の過度な一極集中の弊害の是正 |
③付加価値創出型の新しい地方経済の創生 |
自然や文化・芸術など地域資源を最大限活用した高付加価値型の産業・事業の創出 |
④デジタル・新技術の徹底活用 |
ブロックチェーン、DX・GXなどデジタル・新技術を活用した付加価値の創出 |
⑤「産官学金労言」の連携等、国民的な機運の向上 |
地域自らの意思形成を図る取組と、他の自治体との連携強化によるシナジーの創出 |
(資料)地方創生2.0の「基本的な考え方」、第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説より筆者作成
若者と女性に選ばれる地方をつくることができるかに注目
20代の若者の東京圏への流入が続いていることに対して、政府は、若者や女性にとって「いい仕事」、「魅力的な職場」、「人生を過ごすうえでの心地よさ、楽しさ」が地方に十分に備わっていないという問題にアプローチできていないことに課題意識を持っています。
地方創生2.0の第1の柱では、具体的な施策として、最低賃金の引き上げ、地域間・男女間の賃金格差の是正、非正規雇用の正規化の推進・待遇改善など、賃金上昇に関する施策のほか、L字カーブの解消、男性の育児休業の取得促進、働き方改革の推進など、労働環境の改善に関する施策が挙げられています。さらに、アンコンシャス・バイアスやジェンダーギャップ(※4)の是正・解消といった、性別による格差の是正にも取り組む方針です。若者や女性が地元で就職したいと思えるような環境を作ることができるかどうかに注目が集まります。
まとめ
2025年1月24日の施政方針演説において、石破首相は地方創生2.0を「楽しい日本」を実現するための政策の核心と位置づけ、「令和の日本列島改造」として強力に進めることを宣言しました。首相は、地方創生2.0を極めて重要な政策の一つとし、力強く推進していく意向を示しています。
人々が自分の望む場所に住み、働くことに何ら問題はありません。問題は、生まれ育った町に住みたい、またはそこで働きたいと感じられないことです。政府は、地方創生2.0の推進を通じて各地の魅力を高め、「楽しい日本」の実現を目指しています。地方創生2.0により、地方の魅力が更に引き出され、より多くの人が地方での暮らしや仕事に魅力を感じるようになることを期待しています。
【参考・引用資料】
- (※1)東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県を指す
- (※2)無意識の思い込み
- (※3)令和4年度性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究
- (※4)男女の違いにより生じる格差
- 政府広報オンライン「地方創生」
- 内閣官房「地方創生に関する取り組み」
- 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(2020改訂版)
- 首相官邸「新しい地方経済・生活環境創生本部」
- 内閣官房「新しい地方経済・生活環境創生本部」
- 総務省「住民基本台帳人口移動報告」
- 地域の経済2020-2021
- 令和4年度性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究
- 第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説
(ニッセイ基礎研究所 安田 拓斗)
安田 拓斗(やすだ たくと)
株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部 研究員
研究・専門分野:日本経済
▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(安田 研究員)
https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=69482?site=nli