新社会人のための経済学コラム

第176回 強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は8割以上

2024年10月10日

10月10日は「世界メンタルヘルスデー」

 日本でもたびたび話題となる「メンタルヘルス」。メンタルヘルス不調者は、近年、世界中で増加しており、課題となっています。2022年にWHO(世界保健機関)が公表したメンタルヘルスレポート(World mental health report: Transforming mental health for all(※1))によれば、うつ症状を抱えている人は1億9300万人、不安障害を抱えている人が2億9800万人と推定されています。さらに、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)による社会的孤立や感染不安や親しい人の死亡、家計への不安などを理由に、うつ病や不安障害は、それぞれ25~30%程度増えたと考えられています。

 「世界メンタルヘルスデー」は、世界精神保健連盟がメンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的として、およそ30年前に定めました。WHOも協賛しており、現在では世界60か国以上で、10月10日を「世界メンタルヘルスデー」として、啓発活動が行われています(※2)

 2024年のテーマは、「It is time to Prioritize Mental Health in the Workplace」です。日本語に訳すと「今こそ職場でメンタルヘルスを優先しよう」といった意味になります。

国内の職場におけるメンタルヘルス対策

 日本の職場においても、メンタルヘルス不調は、生活習慣病とならんで大きな健康上の問題の1つとなっています。

 厚生労働省が毎年実施している「労働安全衛生調査(実態調査)(※3)」によると、仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる労働者の割合は、2022年に82.2%、2023年に82.7%と、高い水準で推移しています。今年8月に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、この割合を2027年までに50%未満とすることが目標として掲げられており、その実現のために、職場では長時間労働の改善や有給休暇の取得推進、多様な働き方への対応、メンタルヘルス対策の実施等が推奨されています(※4)

 上述の「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、メンタルヘルス対策を行っている事業所は、全体では2023年に63.8%ですが(図表1)、規模別にみると、規模の小さい事業所では、対策が遅れている(図表2)ことが課題としてあげられています。また、仕事上の不安、悩みまたはストレスについて相談できる人がいると回答した人は9割以上となっていますが、実際に相談した人は、その7割程度にとどまっており、実際は思っていたより相談しにくいものなのかもしれません。

図表1 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合の推移(令和5年)

図表2 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所規模別の割合

健康経営®を支えるサービスの市場規模

 従来、従業員の健康問題については、プライバシーの問題もあるため、職場が関わりにくい課題と考えられていました。しかし、メンタルヘルス不調による欠勤や休職、退職、あるいは、出勤していても生産性が低下するプレゼンティズムによる労働損失は数兆円規模になると考えられており、従業員の生活環境の向上のためにも、企業の収益のためにも、今では、従業員の健康改善に向けて戦略的に働きかける「健康経営」の考え方が浸透してきています。

 経済産業省による2022年度のヘルスケアサービス社会実装事業で実施された国内外での健康経営の普及促進に係る調査報告(※5)によると、国内におけるヘルスケア産業のうち健康保持・増進にはたらきかけるものの市場規模は、2021年の19.2兆円から2050年の57.6兆円にまで拡大することが見込まれています。健康経営を支えるサービスは0.6兆円から3.7兆円と、拡大が見込まれており、従業員にとっては、企業および民間のサービス等が充実することが期待できるかもしれません。

日本の職場における課題

 このように、国の政策として、メンタルヘルス対策は促進されていますが、実態としては、8割以上の人が仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じていて、多くが必ずしも相談をしていない状態となっています。

 職場には、体調や仕事負荷の相談をしやすい環境の醸成が、また従業員には、自分自身の体調に関心をもち、早めに相談し対処していくことが求められるでしょう。

(参考文献)

(※1)WHO“World mental health report: Transforming mental health for all”, 16 June 2022,(2024年9月4日アクセス)新しいウィンドウ

(※2)厚生労働省「世界メンタルヘルスデーとは」(2024年9月4日アクセス)新しいウィンドウ

(※3)厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」(2024年9月4日アクセス)新しいウィンドウ

(※4)厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2024年9月4日アクセス)新しいウィンドウ

(※5)有限責任監査法人トーマツ「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業(国内外での健康経営の普及促進に係る調査)報告書」2023年3月24日(2024年9月4日アクセス)新しいウィンドウ

(ニッセイ基礎研究所 村松 容子)

筆者紹介

村松 容子(むらまつ ようこ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任
研究・専門分野:健康・医療、生保市場調査

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(村松研究員)

https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=54?site=nli新しいウィンドウ

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