新社会人のための経済学コラム

第175回 2年目になると手取り額が減るって先輩から聞きましたが、本当ですか?

2024年9月12日

給与明細書について

 昇給などの影響もあるので、必ずしも2年目になると手取り額が減るとは限りませんが、手取り額が減る可能性があります。その理由を説明する前に、皆さんに質問です。
 給与を受け取るたびに給与明細書が交付されますが、その内容を確認したことはありますか?銀行口座に振り込まれる金額だけを確認している人もいるのではないでしょうか。
 以前は紙の給与明細書を手渡されることが一般的でしたが、ペーパーレス化の進展に伴い、最近は電子交付が増えています。指定されたサイトにログインするなどの手間を惜しんで、給与明細書にアクセスすらしていない人もいるかもしれません。

給与明細書の内容を確認する効果

 給与明細書には勤務状況や給与総額とその内訳のほかに、給与から差引かれる社会保険料や税金などの重要な情報が記載されています。税や社会保険料は、道路の整備、安全の確保、教育など国民の生活に欠かせない事業や、年金や医療など社会全体で助け合う事業に活用されます。給与明細書をきちんと確認することで、社会の一員としてこれらの事業に必要な資金を所得に応じて負担しているという実感が湧き、また具体的な負担額がわかれば、税金等の使われ方を自分ごととして考えられるようになるでしょう。

 さらに、税金に関連するニュースに対する理解が深まるなどの副次的な効果も期待できます。確認していれば、2024年6月の給与から差引かれる所得税が減額されていることに気づいたでしょう。2023年秋以降ニュースなどで話題になっていた定額減税のため、一定額まで2024年6月以降の所得税が減額されるのです。今年は例年より所得税の負担が少ないということは、来年は今年より負担が増し、その分手取り額が減るということです。しかし、理由はこれだけではありません。

個人の所得に対してかかる所得税と住民税

 所得税とは、個人の所得に対してかかる税のことで、課税対象となる所得は給与に限らず、あらゆる所得が含まれます。このため、預貯金の利息も所得とみなされ、利息からも所得税が差引かれています。所得税には、給与や利息のように差引かれる形で納める源泉所得税と、納税者が自ら確定申告を行い納める申告所得税がありますが、全体の約8割は源泉所得税であり、そのうち約6割を給与に係る所得が占めます。このため、所得税は主に働く世代が負担していると言われています。

図表:所得税の内訳

 実は、個人の所得に対してかかる税は所得税だけではありません。国に納める所得税とは別に、都道府県や市区町村に地方個人住民税(以下、住民税)を納める必要があります。国だけでなく、都道府県や市区町村も国民の生活に欠かせない事業を担っており、そのための資金が必要なのです。

5月の給与からも住民税が差引かれていないのは何故?

 所得金額に応じて、所得税だけでなく住民税も負担する義務がありますが、一般的に新社会人の給与からは住民税が差引かれません。給与に係る住民税は、前年分を6月から翌年の5月にかけて差引かれるルールになっているためです。新社会人の場合、前年は社会人でなく給与にかかる所得がないため、給与から住民税が差引かれません。一方、今年入社後の所得に応じた住民税は、来年の6月から支払う必要があります。

 昇給などの影響もあるので、必ずしも2年目になると手取り額が減るとは限りませんが、2年目以降は所得税に加えて住民税も差引かれるため手取り額が減る可能性があります。その上、2024年は定額減税の影響で、例年より所得税が低く抑えられていることも忘れてはいけません。

 これらの社会のルールを正しく理解して、また将来を見据えたうえで、消費と資産形成のバランスをとることも社会人にとっては重要なスキルです。

(ニッセイ基礎研究所 高岡 和佳子)

筆者紹介

高岡 和佳子(たかおか わかこ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任
研究・専門分野:リスク管理・ALM、企業分析

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(高岡研究員)

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