新社会人のための経済学コラム

第165回 「令和5年度男性育休取得率(従業員1,000人超企業)は46.2%、職場風土改善に期待」

2023年12月7日

「産後パパ育休」の新設から早1年

 令和3年6月に育児・介護休業法が改正され(※1)、令和4年4月1日から段階的に施行されてきた。特に、男性の育児休業取得促進に向けた「産後パパ育休」の新設、育児休業の分割取得の施行から早1年が経過している。
 また、同改正に伴い施行された育児休業取得率の公表義務化により(※2)、企業における男性の育休取得率の推移や効果が明らかになりつつある。今回は、公表された直近の状況について確認していこう。

男性育休取得率は46.2%、取得日数平均は46.5日、弱い負の相関

 2023年7月31日に公表された厚生労働省「イクメンプロジェクト」による「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」(速報値)では(※3)、全国の従業員1,000人超の企業・団体4,409件を対象にWebアンケート調査を実施し、回答が得られた企業の状況を公表している。

 調査の結果、従業員1,000人超の回答企業の男性育休等取得率(849社)は46.2%、男性育休等の取得日数(610社)の平均は46.5日であることが明らかとなった。(※従業員数1,000人未満の中小企業を調査対象に含んだ令和4年度雇用機会等基本調査(※4)において、令和2年10月1日から令和3年9月30日までの1年間(育休申出済を含む)の男性育休取得率が17.13%に留まることが公表されていることを踏まえると、企業規模で取得率の乖離が大きいことが分かる。

 次に、育休取得期間に着目すると、厚生労働省は、令和3年度の育休の状況として(※5)、女性の9割が6か月以上の育休を取得しているのに対し、男性の約5割が2週間未満と男女の取得期間の差異を指摘している。なお、男性の育休等取得率と育休取得日数との関連性(181社)をみると、弱い負の相関(相関係数:-0.39)が認められている。つまり、男性においては育休等取得率が高いほど、平均取得日数が短くなる傾向が示されている。(図表1)

 現状では、最新の育休取得日数の男女格差は公表されていないものの、男性が必要な育児期間を十分に取得できているのかについての検証が必要であろう。

図表1.回答企業の男性育休等取得率と平均取得日数の関係(N=181)

公表企業へのメリットと、取得率向上に向けた取り組み効果は?

 続いて、男性育休取得率を公表した企業へのメリット(1,385社)をみると、「社内の男性育休取得率の増加」、「男性の育休取得に対する職場内の雰囲気のポジティブな変化」、「新卒・中途採用応募人材の増加」の順に高い割合が得られていた。(図表2)

 また、育休の取得率向上に向けた取り組みによる効果(1,385社)をみると、「職場風土の改善」、「従業員満足度・ワークエンゲージメントの向上」、「コミュニケーションの活性化」の順に高い割合を示していた。(図表3)

 これらのデータを踏まえると、男性育休取得の促進は、男性育休を取得する当事者のみならず、他の従業員の満足度やワークエンゲージメントへ貢献する波及効果も認められ、さらに人材確保策としても効果的であることが明らかとなった。

図表2.育休等取得率の公表によるメリット(N=1,385、単位:%)

図表3.育休等取得率向上に向けた取組による効果(N=1,385、単位:%)

新社会人の皆様に向けて

 最後に、これらの結果を整理すると、育児・介護休業法の改正に伴い、男性育休取得率については向上が認められるものの、企業規模の差異や、男女の取得率や取得日数の差異を踏まえると、いまだ課題が残る現状であると考える。

 一方、男性育休取得率の公表や取り組み効果として、職場内にもポジティブな変化を引き起こし、ワークエンゲージメントへの貢献が認められていることもわかってきている。
新社会人の皆様は、今回のデータを参考に、自身が働く企業の育児休暇取得状況等に関心を持ち、自身や周囲のメンバーの働き方を考える契機としていただきたい。

(ニッセイ基礎研究所 乾 愛)

筆者紹介

乾 愛(いぬい めぐみ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター兼任
研究・専門分野:健康・医療、生保市場調査

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(乾研究員)

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