新社会人のための経済学コラム

第155回 20代で「出世したくない」が77%だが、それでも心配いらない理由とは?

2023年1月25日

出世欲のない20代は77%!?

 「今時の若者は欲がない」のをよく聞くでしょう。例えば、日本の20・30代の飲酒習慣率は20年ほど前と比べ半分ほどに低下し、若者の意識や価値観の変化が伺えます(※1)。こうした中、2022年6月に、20代の男女を対象に、「出世欲」に関するアンケート調査を実施した結果では、20代で出世したくない人の割合は約77%と非常に高い割合であることが分かりました(※2)

出世したくない一番の理由は「ワークライフバランス重視」

 出世したくないと思う理由を見ると、「責任のある仕事をしたくない」と「プライベートを大事にしたい」の2つに回答が集中しています。多くの人は、管理職等の就任に伴う「仕事中心の生活」、「家族や自分の時間を取りづらくなる」状況を避けたい傾向にあることが分かりました。
同じく、日本生産性本部で新入社員を対象に就労意識をテーマとして、長年にわたって実施した調査でも、2000年から「働く目的」の最上位が、急増した「楽しい生活をしたい」となっています(※3)。2017年内閣府が行った就労等に関する若者の意識調査でも、「仕事を選択する際に重要視する観点」の第1位は「安定していて長く続けられること」でした(※4)

図表 仕事を選択する際に重要視する観点(n=10,000人)

(資料) 内閣府「平成30年版 子供・若者白書」をもとにニッセイ基礎研究所作成。

出世したくないは「ヤバい」ことなのか?

 「出世したくない」という若者の意識調査結果が出るたびに、批判的な反応がでますが、筆者はそんなに悲観的になる必要はないと考えています。
なぜなら、今から15年前の2007年に、日本経済新聞社が実施した全国の大学生・大学院生5,137人を対象とした「就職希望企業調査」(※5)によると、「出世したい」男子学生の割合は32.4%、女子学生は13.9%でした。一方、「自分の生活と仕事を両立させたい」について、男子学生の割合は60.8%、女子学生は76.7%で、若者の意識は今も昔も変わっていませんでした。つまり、実際に、現在管理職に就任している人も、新人や若い頃に日々出世のことを意識していたわけではないのです。

また、プライベートな時間を重視するからと言って、仕事に対する意識が低下するとは考えられません。ある研究結果によると、私生活の充実感や幸福度は「仕事の集中力を高める」(※6)となっています。
つまり、ワークライフバランスを重視する人だからこそ、働いているときに気を散らすものはなく、安定感を求め常に努力し続け、私生活でも仕事でも成長する可能性が高いと考えます。

こうした何かを大事にしたい、重視したいという前向きな気持ちは、社員ひとりひとりの生産性のアップにつながり、企業全体の生産性向上にもつながると考えます。
日本はバブル崩壊以降、長い低迷期が続きましたが、「当時の若者」の支えがあったからこそ、日本はいまでも世界で有数の豊かな国であります。日本の将来も「今時の若者」が大きなカギを握っているでしょう。

【参考資料】

(※1)久我尚子「さらに進行するアルコール離れ-若者で増える、あえて飲まない「ソバ―キュリアス」」より。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73047?site=nli新しいウィンドウ

(※2)転職サイト比較plus、全国の20~29歳の男女2327人を対象に実施する「出世欲」に関するアンケート調査https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000067.000005088.html新しいウィンドウ

(※3)日本生産性本部「新入社員「働くことの意識」調査」より、同調査は2019年度の発表をもって終了しました。https://www.jpc-net.jp/research/list/new_recruit.html新しいウィンドウ

(※4)内閣府「平成30年版 子供・若者白書 特集 就労等に関する若者の意識」https://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h30gaiyou/s0.html新しいウィンドウ

(※5)男女共同参画会議「「ワーク・ライフ・バランス」推進の基本的方向 報告」平成19年7月より。https://www.gender.go.jp/kaigi/danjo_kaigi/siryo/pdf/ka27-9.pdf新しいウィンドウ

(※6)Rothbard, N. P. (2001). Enriching or depleting? The dynamics of engagement in work and family roles. Administrative science quarterly, 46(4), 655-684.

(ニッセイ基礎研究所 胡 笳)

筆者紹介

胡 笳(こ か)

株式会社ニッセイ基礎研究所、社会研究部 研究員
研究・専門分野:土地・住宅、中国不動産全般

▼ニッセイ基礎研究所ホームページ(胡研究員)

https://www.nli-research.co.jp/topics_detail2/id=61616?site=nli新しいウィンドウ

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