日本生命の環境取組について

開催日:2021年10月14日(木)

気候変動に伴う自然災害リスクの増大が顕在化する中、気候変動対応、環境保全は世界共通の課題となっています。
気候変動が人の命と健康に及ぼす影響は、生命保険事業者である日本生命にとっても非常に重要な問題であり、事業の使命や公共性という観点からも最重要の経営課題であると認識しています。かけがえのない地球環境を次世代へ継承するべく、日本生命が事業活動のあらゆる場面において推進してきた環境保護の取り組みについて、有識者の方々から貴重な意見をいただきました。

  • 新型コロナウイルス感染症拡大防止に配慮し、マスク着用で開催しました。

有識者

上妻 義直 様

上智大学 名誉教授

上妻 義直 氏

環境会計論および国際会計論を専門に国内外のCSR動向を踏まえた研究、教育・指導における第一人者で国内のCSR向上にも寄与。環境省における環境報告および環境会計関連の各種委員会の座長など、多くの公的役職も歴任。
「CO2を見える化するカーボンラベル」(中央経済社)など、著書多数。

鷲谷 いづみ 様

東京大学 名誉教授

鷲谷 いづみ 氏

専門は生態学、保全生態学で、現在は生物多様性と自然再生に係わる幅広いテーマの研究に取り組んでいる。「〈生物多様性〉入門」(岩波書店)、「実践で学ぶ生物多様性」(岩波書店)、「地球環境と保全生物学」(岩波書店)、岩波ジュニア新書 「さとやま - 生物多様性と生態系模様」(岩波書店)、「震災後の自然とどうつきあうか」(岩波書店)など著書多数。

足達 英一郎 様

株式会社日本総合研究所
常務理事

足達 英一郎 氏

株式会社日本総合研究所 経営戦略研究部、技術研究部を経て、現在、未来社会価値研究所長。専門は、環境経営、企業の社会的責任、サステナブルファイナンス。公益社団法人経済同友会社会的責任経営推進委員会ワーキング・グループメンバー、ISO26000作業部会日本エクスパートなどを歴任。「投資家と企業のためのESG読本」(日経BP社、共著)など著書多数。

ファシリテーター

福島 隆史 様
(サステナビリティ会計事務所 代表取締役)

日本生命保険相互会社出席者

朝日 智司 (取締役 専務執行役員)
山内 千鶴 (取締役 常務執行役員)
岡本 慎一 (執行役員 財務企画部長)
宮崎 まゆ子 (CSR推進部長)
岩本 昌弘 (CSR推進部 環境経営推進部長)
有江 貴文 (CSR推進部 サステナビリティ経営推進課長)

  • 出席者の所属・役職はダイアログを開催した当時のものです。

意見交換

事業と一体感を持った環境取り組みを

山内
当社の環境配慮は、紙を大量に消費する生命保険事業の責任としての省エネ・省資源の取り組みがスタートラインでした。しかしながら、社会全体の環境意識の高まりに応じて自らの取り組み強化を果たす中で、2019年3月に「SDGs達成に向けた当社の目指す姿」を設定するに至り、その一つに持続可能な地球環境の実現を掲げました。
現在、当社ではその目標に向けて「気候変動問題」「プラスチック問題」「生物多様性」の3つの取り組みに主眼を置いて、活動を推進しているところです。中でも社会的に注目度の高い「気候変動問題」への取り組みについては、2021年3月に2050年度ネットゼロ達成という具体的なCO2排出量削減の目標を定め、TCFDを活用しながら、当社自身のサステナビリティにも関わる重要な経営課題として取り組みを加速しようとしています。
足達様
私自身は1999年頃から企業の環境問題への取り組みを注視してきましたが、直近の3年ほどで、まるで堰を切ったように気候変動問題への対応が急速に動き出したことに驚きを感じています。2020年10月に政府が掲げた「2050年カーボンニュートラル」にすぐさま呼応する形で、貴社が2050年度ネットゼロを宣言したことは画期的なことと感じます。その上で課題を申しあげるのですが、貴社が今後も持続的な成長を果たしていこうという中で、気候変動が貧困と格差、人々の健康といった生命保険事業の根幹にかかわる問題に与える影響について、どのように捉えているのか、そこが見えづらいように感じます。事業と一体感をもった環境取り組みが求められている中で、今後はそうしたアプローチが必要となってくるのではないでしょうか。
朝日
当社は、2021年3月に新中期経営計画を策定しました。コロナの影響が大きい時期に策定したこともあり、成長戦略については、コロナからの脱却が一つの大きなテーマとなった内容となっていますが、足達先生がおっしゃっているように、当社のサステナビリティ経営を次なるステージに大きく進化させる必要があると認識しております。
上妻様
貴社が社会に発信されている様々な取り組みからは、金融機関としてESGに関する責任を重く受け止め、きちんと対応している姿を見て取ることができ、非常に好感を持っています。ただし、足達先生からもお話があったように、変化のスピードが本当に早く、貴社を含めた多くの日本企業は事態を理解しきれていないように感じます。既に欧州各国では、現在のコロナ禍からの経済回復を目指す段階において、元の経済体制に戻ることなく持続可能な社会を目指す姿勢を強く打ち出しており、それが法律として次々に発現しているという事実があります。欧州では、金融で世の中を動かすサステナブルファイナンスの考え方が強く、アセットオーナーのポジションに大きな期待がかけられています。デューデリジェンスが実行規制として環境と人権に対して行われるようになっており、いずれ貴社にも投資チェーンを含めて厳しい情報開示の要求が来る可能性が高いです。貴社はSDGs達成を後押しするESG投融資の取り組み推進を標榜されていますが、たとえばスコープ3におけるカテゴリ15(投資)をしっかりと管理・評価していくことは今後避けられません。経営層が危機感を持ってこうした世界の動きをよりスピード感をもってキャッチアップしていく必要性は、皆さまが考える以上に高まっていると思います。
岡本
当社では、投資先に対しても温室効果ガスの排出削減を働きかけ、2050年度までに実質ゼロを目指して活動を推進しています。スコープ3のカテゴリ15についてもTCFD開示の中で、私たちが能動的に働きかけることができる国内の投資先に絞って排出量約1千万tの開示をしました。海外の投資先も含めると、更に増加します。ESG投融資の推進を掲げる中で、私たちとしても社会をリードするべく取り組んでいますが、世の中の動きが本当に早く、時には投資先の企業さまの方が先行して対応を進めるケースもあります。私たちが社会からESG投融資に関わる価値観を問われる際の内容も年々レベルが上がっており、身の引き締まる思いです。

生物多様性の取り組みは地域とともに

鷲谷様
SDGsに掲げられたゴールはいずれも重要なものですが、一番の肝は、それらに統合的に取り組み、達成していくべきということです。もう一つ大切なのは、何がどのくらい問題なのか、あるいは危機的なのかをしっかりと意識していくこと。生物多様性は、最も危機的な状況にある問題であり、貴社が重視するプラスチック問題や気候変動の影響とも大いに関連しています。しかしながら、健全な生態系、生物多様性が私たちにもたらす恩恵というものを、普段の暮らしの中で認識することは簡単ではありません。生態系を形づくる生物多様性が一つ抜け落ち、二つ抜け落ち、あるいはごそっとなくなってしまったとき、そこにどんなリスクがあるのか、わかりやすい指標はまだ存在していないのです。近年、環境政策を先導する欧州などでは「生態系スチュワードシップ」という言葉をよく耳にするようになりました。これは人も生態系の一員であるから、生態系からサービスを受け取っている一員として、責任のある関わり方をすべきといった考え方であり、その実践にはまず地域における取り組みが重要です。生物多様性の研究者自体がそれほど多くない中で、実際のところ地域の市民が取り組みを支えています。それぞれの地域において生物多様性の取り組みを進めていただければ、今の日本にとっては一番効果があると感じています。
宮崎
全国で事業を展開している私たちにとって、それぞれの地域から生物多様性への取り組みを進めていくべきというのは非常に示唆のあるお言葉です。次の一手をどうすべきか、悩んでいたところでもあったので、地域の方々とのやり取りの中で私たちが享受している生態系サービスの本当の価値というものを、うまく伝えることが最初の一歩になるのではないかと感じました。

環境問題は最大のリスクとなり得る

山内
欧州では環境問題を最優先課題と位置付け、デューデリジェンス義務化の議論が進んでおり、こうした背景から、当社においてもトップマネジメントとして、バリューチェーンにおける投資先を含めて積極的に影響力を発揮していくべきというお話があったかと思います。そんな中、私自身が悩んでいるのが、今後、環境を含めたサステナビリティにおける当社のマテリアリティをどのように捉え、発信していくべきか、ということです。マテリアリティの選定や環境問題を会社にとって重要なリスクと捉え、それをバリューチェーン全体の中で解決に向けて取り組んでいくポイントなど、アドバイスをいただけますか。
上妻様
リスクベースで考えて、一番大きなリスクを排除しながら、それをビジネスにつなげていくという考え方は、事業と社会のサステナビリティ推進を目指すうえで自然な流れです。そういう意味では、貴社にとっての最大のリスクが何かをまず見極めることが必要とされているのではないでしょうか。私は、貴社が最も重要視すべきリスクは気候変動と人権にあると考えています。スコープ3のカテゴリ15には、投資上の見えないリスクが数多く含まれています。ある意味、この問題が貴社のビジネスにとって非常に重要であることが、危機感を持って受け止め切れていないのではないでしょうか。欧州では環境や人権デューデリジェンスの義務化に対して反発がないと言われています。産業界がこれに賛成しており、すでに準備は済んでいるのです。
朝日
気候変動のリスクや人権のリスクなどの社会的課題に関するリスク対応は、サステナビリティ経営の基本中の基本ではありますが、欧州での動きなども踏まえ、開示の問題も含め、どういう形で進めるべきか、必要な要素はどういったものか、などについて、早急に取り組む必要があると認識しております。
岡本
カテゴリ15に潜むリスクについては、おっしゃる通りです。私たちは生命保険で集めたお金を運用しており、今お預かりした資金は10年後、20年後に給付金や保険金という形でお支払いすることになります。従ってリスクの認識としては、ESGあるいは気候変動に関わる長期的な視点でのリスクを、一般の投資家よりも重要性の高いリスクとして評価をしていかねばなりません。これは私たちが長期を見据えた機関投資家だからこそ、やるべきことと認識しているつもりです。世の中の変化の早さに翻弄されることもありますが、そこは工夫と努力で何とかついていきたいと考えています。
足達様
今日は、3つ提案を申しあげたいと思います。一つは、「コモンズ(共有地)」という概念を、相互会社である貴社の環境取り組みなどの中で活用されてはいかがかということです。金融という仕組みを社会的共通資本と捉え、保険のように助けあう仕組みとコモンズという概念は、通じ合うものだと思います。二つ目の提案は、若い人たちの味方である保険会社、という考え方です。今より将来のことを考えられる若い人たちをターゲットにして、巻き込んでいくことが、今後貴社がサステナビリティ経営を推進していくうえで、重要なカギになると思います。最後に、日本生命らしさを感じさせる環境取り組みを作っていけないかというご提案です。たとえば「ニッセイの森」もスコープ1・2の排出量をオフセットするところまで持っていくことができたら、社会的なインパクトも大きいと思います。
有江
示唆に富んだご意見、非常に参考になります。なお「ニッセイの森」のCO2吸収量は年間で1,703t-CO2と、なかなかオフセットするまでには足りない状態です。しかしながら全国の森で吸収量を高める努力は継続的に続けており、今後もニッセイ緑の財団と協力しながら活動としての質もインパクトも高めていければと思います。
鷲谷様
「ニッセイの森」は、間伐によって森林を健康に保つとともに、森林組合との連携のもと林業に活用するなど、経済的な意義を見出す方向でも取り組みが進んでいますよね。長年にわたって育ててきた「ニッセイの森」が、経済面、環境面で生み出す様々な価値に注目しながら、発展させていかれればよいのではないでしょうか。

スピード感を持って環境取り組みを推進

岩本
私たちも世の中のスピードに追いつき、さらには少し先を行く取り組みにまでつなげていきたいです。当社は約7万人の従業員がおりますが、当社そして社会全体が直面する環境問題を、全ての従業員がしっかりと理解することが、取り組み自体を加速させていくのではないかと感じました。
岡本
資産運用部門の担当として、収益性と安全性、それから公共性の3つを相反する価値観として捉えるのではなく、すべてを同時に高めていけるような資産運用に一歩でも近づけたら、と思いを新たにするきっかけになりました。
朝日
本日はいろいろなご提案をいただきましたが、中でも次の中期計画につながる考え方として、若い人に対してもっと敏感であるべきとか、もっとニッセイらしさを、といった内容につきましては、大きなヒントをいただいたと思います。
山内
社内のサステナビリティ推進に向けては、バリューチェーンにおける総合的なリスクの分析・把握が不十分であるというご指摘をいただき、重要な課題であることを改めて認識しました。今後、重要なマテリアリティを定め、社内で共有を図り、それを一人ひとりが自分ごととして受け止め、進めていけるようにしていきたいと思います。本日は大変貴重なご意見をいただき、誠にありがとうございました。
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