肝硬変の症状とは?原因や予防方法も紹介
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病気/ケガ
2025.07.02

肝硬変は、一度発症すると治療方法がほとんどなく、放置していると命に関わる病気です。また、肝臓は、異常が起きていても自覚症状がでにくく、何らかの症状があるときにはすでに病気が進行していることがほとんどです。肝硬変の発症の原因には、肝炎ウイルスによるものや過度な飲酒によるものなど、いくつかの原因が存在しますが、肝臓の異常を早期に発見し、できるだけ早期に適切な対処をすれば肝硬変を予防したり、進行を遅らせたりすることができます。この記事では、肝硬変の原因や症状、検査方法や予防方法などについて詳しく解説します。
〈この記事でわかること〉
- ・肝硬変は、肝臓が長期間にわたってダメージを受け続けることによって、肝臓が硬くなってしまう深刻な病気
- ・肝硬変になる原因はいくつかあり、近年はアルコールの飲みすぎによる肝硬変が増加している
- ・肝硬変を予防するためには、生活習慣や飲酒量の見直しと定期検診による早期発見・早期治療が大切
肝硬変とは
肝硬変とは、肝臓が長期間にわたってダメージを受け続けることによって、肝臓が硬くなり、次第に小さくなってしまう深刻な病気です。肝硬変によって肝臓が硬く、小さくなると、門脈からやってくる血液の流れが滞るようになり、肝臓の機能がさらに低下するという悪循環に陥ります。これにより、体内の有害物質や栄養を処理できなくなり、その結果、食欲不振や倦怠感、黄疸や腹水などさまざまな症状を引き起こし、命を脅かすのです。さらに肝硬変が進行すると、肝臓がんの罹患リスクも高くなります。
肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれ、症状を自覚しにくく、知らない間に肝硬変になるケースが少なくありません。しかし、検診などで早期に異常を発見し、適切な治療を受けることで病気の進行を遅らせることができます。
肝硬変の原因
肝硬変は、肝臓が長期的にダメージを受けることで細胞に炎症が起き、進行していきます。肝硬変のきっかけとなるダメージには、
- ・アルコールの摂取によるもの
- ・肝炎ウイルスへの感染によるもの
- ・自己免疫性の病気によるもの
- ・薬物などの摂取によるもの
などが知られています。
それぞれ詳しくみていきましょう。
アルコールの摂取
長期にわたるアルコールの摂取によって、肝臓の細胞破壊が進行し、やがて肝硬変に至るものです。通常、少量のアルコールを摂取しても肝臓を傷めることはあまりありませんが、日本酒換算で1日3合、ビール大ビン3本、ウイスキーシングル6杯以上のアルコールを5年以上にわたって摂取しつづけていると、肝臓に深刻なダメージを与え、肝硬変に移行するリスクが高くなります。
2007年ごろまでは、アルコールの飲みすぎによる肝硬変は、肝硬変患者の約13%程度でしたが、近年その割合が増え続けており、2018~2021年には、肝硬変患者の約35%にまで増えています。
出典:国立国際医療研究センター肝炎情報センター
肝炎ウイルスの感染
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスへの感染により、肝臓の細胞が破壊され、治療しないまま進行すると肝硬変に至ります。これらのウイルスは、主に血液を介して人から人にうつります。注射器の共有や針刺し事故、性交渉などによって、本人が気づかないうちに感染していることもあります。
自己免疫性の疾患
本来、自分の身を守るための免疫が、何らかの原因によって自分の肝臓や胆管(肝臓と胆嚢(たんのう)をつなぐ管)などの細胞を攻撃して破壊してしまうことで、肝臓がダメージを受け、肝硬変に至ることがあります。根本的な原因は解明されていませんが、中年以降の女性に多いといわれています。
薬物などの摂取
薬物(薬剤)の摂取によって、肝臓に炎症が起こり、肝臓がダメージを受けることがあります。程度はごく軽いものがほとんどですが、劇症肝炎といって、短時間の内に肝臓の大部分が大きなダメージを受ける重篤なものもあり、肝硬変に進行することがあるため注意が必要です。
肝硬変の症状
肝硬変は病気の進行具合によって、初期の「代償性肝硬変」と重度の「非代償性肝硬変」の2つに分けられます。そもそも肝臓には、「代償能」といって、肝臓の一部が破壊されても、残りの部分がそれをカバーして、ある程度までは肝臓の働きを維持することができます。肝硬変の程度が軽く、代償能が働いている状態を「代償性肝硬変」といいます。自覚症状はほとんどありませんが、人によっては倦怠感や食欲不振になる場合があります。
しかし、「非代償性肝硬変」に進行すると、肝臓の機能が保てなくなり、肝硬変に特徴的な以下のような症状があらわれます。
黄疸(おうだん)
肝硬変が進むと、黄疸といって、皮膚の色調や、白目の部分が黄色っぽくなります。これは、肝臓の機能が落ちることで、血液由来のビリルビンという黄色味を帯びた物質の代謝が、血中に蓄積するためです。
腹水・むくみ
肝臓の機能が低下することで、腹水やむくみが出現します。これは、血管の中に水分を蓄える働きをもつ、肝臓由来のアルブミンという物質が減少するためです。アルブミンが不足することで、血管から水分が染み出して、おなかに水がたまったり(腹水)、全身がむくんだりします。
食欲不振
肝臓の機能が低下することにより、栄養素の吸収や代謝がうまくいかなくなり、食欲不振になることがあります。さらに非代償性肝硬変が進行すると、溜まった腹水による胃への圧迫が加わって、食欲がなくなってきます。
クモ状血管腫
肝臓の機能低下にともなって、毛細血管が拡張することで、クモ状血管腫が起こります。これは、皮膚の表面に、まるでクモの脚のような形をした、赤く盛りあがったスジがあらわれることを指します。
手掌紅斑(しゅしょうこうはん)
肝臓の機能の低下にともなって、毛細血管が拡張することで、手の親指や小指の付け根、手のひらに紅斑(血管が広がることによる皮膚の赤み)が出ることを手掌紅斑といいます。痛みやかゆみはありません。
女性化乳房
男性にあらわれる症状です。肝臓の機能が低下することで、男性の血液中にわずかに存在する女性ホルモンの分解処理が滞ることによって、女性ホルモンが働いてしまい、乳房や乳首が大きくなります。
羽ばたき振戦(はばたきしんせん)
肝臓の機能の低下により、脳に害が及んだときに出る手の震えの症状を羽ばたき振戦といいます。羽ばたき振戦とは、両腕を前方に上げて手のひらを下に向けてから、前方正面に向かって手を反らせようとすると維持できず、手の筋肉が意思に反して脱力を繰り返すことで、鳥がバタバタと羽ばたくような震えが起きる状態を指します。
出血傾向
肝臓の機能が低下することで、本来肝臓で作られるはずの血液凝固成分(血を固める成分)が不足します。これによって、血が止まりにくくなり、出血しやすくなります。
肝硬変の検査方法

肝硬変の検査は、血液検査や超音波検査、CT検査などの精密検査を組み合わせておこないます。
血液検査
血液検査では、全身の状態や肝臓の状態のチェック、肝炎ウイルスへの感染がないかなどを調べます。
超音波検査
超音波検査では、肝臓の大きさやかたち、炎症や硬くなっている部位がないかなどを大まかに観察します。肝硬変による腹水の有無も調べることができます。
CT検査などの精密検査
疑わしい部位が見つかった場合は、CT検査やMRI検査などをおこない、肝臓の状態をさらに詳細に観察します。
肝硬変を防ぐために気をつけたいこと
肝硬変になってしまったら、根治を目指せる治療や薬剤はほとんどありません。そのため、食事や飲酒習慣など、日常生活を見直し、肝硬変に進行するのを防ぐことが大切です。
栄養バランスがとれた食事をとる
タンパク質、炭水化物、脂質の栄養バランスのとれた食事をとることが基本です。肝臓の働きを維持するために必要な栄養素を補給するため、主菜、副菜、主食のそろった食事を規則正しくとりましょう。ただし、すでに肝機能が低下している場合は、たんぱく質の摂取に制限がある場合があるため、医師や栄養士の指示に従いましょう。
飲酒量を調整する
多量のアルコール摂取は、肝臓に大きな負担がかかり、肝硬変を進行させてしまうので避けましょう。
肝臓に異常がない人であっても、過度な飲酒は避け、厚生労働省が示す「節度ある適度な飲酒量(一日平均純アルコールで約20g程度)(表)」を守りましょう。ただし、すでに肝臓に異常のある方や肝硬変がはじまっている人は、基本的に飲酒はすすめられません。医師の指示に従いましょう。
節度ある適度な飲酒
(主な酒類の換算の目安)
出典 厚生労働省
アルコールの種類 | ビール (中瓶1本500ml) |
清酒 (1合180ml) |
ウイスキー・ブランデー (ダブル60ml) |
焼酎(35度) (1合180ml) |
ワイン (1杯120ml) |
アルコール度数 | 5% | 15% | 43% | 35% | 12% |
---|---|---|---|---|---|
純アルコール量 | 20g | 22g | 20g | 50g | 12g |
便秘を予防する
便秘をすると、腸内の腐敗菌が増殖し、血中のアンモニアが増えて肝臓に良くありません。便通をよくするために、野菜から食物繊維を十分にとったり、消化に良いものを食べたりなどの工夫をしましょう。
ストレスを軽減する
日常的に過度なストレスをためてしまうと、食べすぎや飲みすぎ、生活の乱れなどの原因になります。ストレスをゼロにすることはできませんが、ストレスの元になる環境から遠ざかる、リフレッシュする時間を設けるなどして、ストレスを溜めすぎないようにしましょう。
適度に運動をする
適度な運動も大切です。軽く汗ばむくらいの運動を毎日30分程度続けてみましょう。運動をすることで肥満予防や、肝硬変にともなう筋肉の衰えを防ぐことができます。ただし、肝硬変が進行している状態の人は無理に運動することはおすすめできません。医師の指導に従いましょう。
定期検診を受診する
肝臓は“沈黙の臓器”と呼ばれるように、肝臓の状態が悪くなっていても、初期の段階では自覚症状がないことがほとんどです。そのため、定期検診を受診し、肝臓の状態をチェックしておくことが大切です。定期検診は肝臓の機能の変化や異常の早期発見に欠かせません。また、肝硬変の原因のひとつである肝炎ウイルスへの感染の有無も調べることができます。肝臓の異常やウイルス感染の発見が早ければ早いほど、肝硬変になるリスクを下げることができます。
まとめ
肝硬変は、過度のアルコール摂取や肝炎ウイルスへの感染、免疫の病気などによって、肝臓の細胞が破壊されることで発症します。特に近年では、アルコール摂取によって肝硬変を発症する人の割合が増えているため、飲みすぎには十分注意しましょう。
一度肝硬変になってしまうと、現在のところ有効な治療法や薬剤がなく、放置していると命に関わる病気です。そのため、肝硬変に至ってしまう前に、肝臓の異常を早期に発見し、早期に対処することが大切です。定期検診の受診と、正しい生活習慣をこころがけ、肝硬変を防ぎましょう。
監修者プロフィール
医学博士、医学研究者
榎本 蒼子(えのもと あおこ)
2015年まで公立医科大学にて医学研究および医学教育に従事。在職中は医師・研修医向けの東洋医学セミナー等を担当。現在は医療ライターとして、健康に役立つ情報や最新の医学研究に関する情報を発信している。