【よくわかる「急性心筋梗塞等」のメカニズム】

2024.08.30

急性心筋梗塞等の虚血性心疾患とは

心臓の役割を概観したうえで、虚血性心疾患を詳しくみていきます。

冠動脈狭くなって血流が悪化

虚血性心疾患は冠動脈の血流が不足したり、途絶えたりする病気ですが、それは何らかの原因で冠動脈が狭くなり、さらには完全にふさがれることによって起こります。
ちなみに「虚血」とは「血がない」、もしくは「血が足りない」状態を指す言葉。冠動脈が狭くなるなどして血流が不足し一時的に酸欠状態に陥るのが狭心症で、一方、冠動脈が完全に詰まり血流が途絶えた状態が急性心筋梗塞です。
狭くなって血流が悪化

「突然死」の原因として最多

WHO(世界保健機関)の定義によると、「突然死」とは「瞬間死あるいは発病後24時間以内の内因死」を指し、交通事故などの「外因死」は含みません。突然死の統計ではありませんが、2021年に急病により救急車で病院に搬送されたものの初診時に死亡が確認された人の病気は、急性心筋梗塞を含む「心疾患等」が43.5%*1 を占めて最多でした。また、日本救急医学会も「成人の突然死の原因としては虚血性心疾患が最も多い」*2としています。

*1 出典:総務省消防庁「令和4年版 救急救助の現況」

*2 出典:(一社)日本救急医学会ホームページ「医学用語 解説集」

冠動脈は心臓の「命綱」

心臓は体のすみずみまで血液を送るポンプの役割を果たしています。この血液によって人が生きていくために必要な栄養や酸素が体内に届けられているのです。
一方で、その心臓が24時間休まずに働き続けるためには「心筋」と呼ばれる心臓の筋肉に十分な栄養や酸素が届けられる必要があります。その大事な役割を担って心臓に血液を届けているのが、心臓を取り巻く「冠動脈」と呼ばれる血管です。心臓から送られた血液の一部が冠動脈を通って再び心臓に送られています。
冠動脈は右冠動脈と左冠動脈に分かれ、左冠動脈はさらに回旋枝と前下行枝に分かれています。
冠動脈は右冠動脈と左冠動脈に分かれ、左冠動脈はさらに回旋枝と前下行枝に分かれています。

生活習慣要注意

虚血性心疾患を引き起こす原因は冠動脈の動脈硬化です。では、動脈硬化がどのようにして起きるかというと、生活習慣の乱れや生活習慣病が血管にダメージを与えることで進行します。
生活習慣の乱れを改めるとともに、定期健康診断や特定健康診査などの心電図検査で「所見あり」とされ、精密検査の指示を受けたら、放置せずに精密検査を受けて早期発見に取り組むことが大切です。
定期健康診断での心電図有所見率
定期健康診断での心電図有所見率

出典:厚生労働省「令和4年定期健康診断実施結果(年次別)」

※「有所見率」とは異常の所見のあった者の割合

こんなに変わる発症リスク

日本動脈硬化学会が、コレステロールや血圧の値、喫煙習慣、耐糖能異常(いわゆる糖尿病予備群に該当)の有無などを入力すると、心筋梗塞などの冠動脈疾患と動脈硬化性の脳梗塞を発症するリスクを計算してくれるツールを公式サイト上で公開しています。
これを使って55歳男性Aさんと女性Bさんの発症リスクを計算した結果が右の表。Aさんは脂質異常症が疑われるほか、糖尿病予備群で血圧も高め、喫煙もしているなど複数の危険因子があることから、2人の発症リスクにはこれだけの差が出ることになりました。

出典:(一社)日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患発症予測ツール(一般向け)」https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool/

動脈硬化性疾患発症リスク予測結果
動脈硬化性疾患発症リスク予測結果

※ 狭心症・心筋梗塞・脳梗塞を起こしたことがある人は利用の対象外。その他、年齢や持病によって利用できない場合があります。詳しくはサイトをご確認ください。

合併症障がい状態になるリスクも

虚血性心疾患で治療を受け、幸い一命をとりとめても、心臓の細胞の壊死範囲が広ければ心不全や不整脈などの合併症を引き起こすリスクが高くなり、継続的な治療が必要になるケースもあります。また、合併症を発症してペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)などを植え込んだ場合は障がい認定されます。

急性心筋梗塞

心臓への血流が途絶え、突然死に至る危険な病気です。

一刻も早い治療開始が生死を分ける

急性心筋梗塞は冠動脈に血栓という血のかたまりができて詰まり、血流が途絶えることによって起こります。血流が途絶えると、15〜30分ほどでその先の心筋が壊死し始め、それが広がると心不全となります。また、「心室細動」という危険な不整脈を引き起こして突然死する場合もあります。急性心筋梗塞の発作が起きたら、一刻も早く救急車で病院へ運ばなければなりません。発症から6時間以内に血管を広げる治療をすることが有効とされています。
急性心筋梗塞の発作

強烈な発作が15分以上続く

動脈硬化が進んで冠動脈にたまった粥腫の表面を覆う被膜が破れると、それを修復するため血小板が集まって血栓をつくります。この血栓が詰まって冠動脈をふさぎ、血流が途絶える、というのが急性心筋梗塞のメカニズムです。
その発作の特徴は激しい胸の痛みで、「火箸でえぐられるような痛み」と表現する人もいるほど強烈。発作が15分以上継続していたら急性心筋梗塞の疑いが濃厚です。
粥腫

早急なCCU搬送が救命のカギ

治療技術の進歩により、急性心筋梗塞で医療機関のCCU(心血管集中治療室)に運ばれた患者の救命率は向上しています。ただし、病院到着前に突然心停止する例は急性心筋梗塞の総患者の15%に達しており早急なCCUへの搬送が救命のカギ。このため、「胸痛が5分以上続けば、すぐに119番」が合い言葉になっています。また、治療に成功した後も心臓リハビリや職場復帰に向けた調整が待っているほか、再発のリスクにも備える必要があり、根気強く病気と向き合うことが求められます。

*出典:長尾建 林成之 上松瀬勝男「虚血性突然心停止」(日本内科学会雑誌 第93巻 第2号・平成16年2月10日)

東京都の急性心筋梗塞死亡率
東京都の急性心筋梗塞死亡率

出典:東京都CCU 連絡協議会「東京都CCUネットワークの活動状況報告2018」

※ CCU(心血管集中治療室)に運ばれた急性心筋梗塞患者の死亡率

喫煙によるリスクは最大4.4倍

喫煙習慣と虚血性心疾患の関係を調べた調査によると、1日にたばこを35本以上吸っている男性は吸わない男性に比べ、心筋梗塞になるリスクが4.4倍、15〜34本では3.6倍、1〜14本では3.2倍、高くなることがわかっています。

* 国立がん研究センターがん対策研究所「多目的コホート研究の成果」より作成

狭心症

急性心筋梗塞に進行するリスクがある心臓病です。

発作は一時的、血流が改善すれば治まる

冠動脈が狭くなり、血流が悪くなることで、締めつけられるような胸の痛みなどの発作に襲われる病気です。奥歯やあご、背中や腕などに痛みが広がることがあり、「放散痛」と呼ばれます。発作は一時的なもので、長くても15分以内で治まりますが、急性心筋梗塞に進行することもあり、注意が必要です。
狭 心 症
労作性狭心症
動脈硬化などが原因で、
冠動脈が狭くなって発症
安静時狭心症
(冠れん縮性狭心症)
冠動脈がけいれんを起こすことで発症
微小血管狭心症
冠動脈ではなく、
毛細血管の異常によって発症

動脈硬化が主な原因の労作性狭心症

狭心症の中でもっとも多いのが労作性狭心症階段を上ったり、走ったりした時に発作が起こります。主な原因は動脈硬化により冠動脈が狭くなり、血流が悪くなること。胸の痛みなどが起きますが、通常は安静にしていれば10分以内程度で治まります。
労作性狭心症

冠動脈がけいれんする安静時狭心症

冠動脈の一部がけいれんを起こすことで血管が狭くなり、血流が不足するのが安静時狭心症。安静にしている時に発作が起きやすく、特に明け方〜午前中に多いとされています。発作の時間は労作性より長く、10分以上に及ぶこともあります。 
安静時狭心症

急性心筋梗塞に進行しやすい
不安定性狭心症

狭心症の中には「不安定性狭心症」と呼ばれる、急性心筋梗塞に進行するリスクの高いものもあります。冠動脈の粥腫の内側に亀裂が入って血栓ができ、それによって冠動脈の流れが悪くなる重症の狭心症です。新規・進行性の狭心症で、短期間で病状が悪化するため、速やかに入院治療に入る必要があります。 
リスクによる分類
リスクによる分類

検査・治療・お金の話

急性心筋梗塞等の検査と治療、そして必要になるお金の話です。

心電図や血液、CT検査で診断

心臓の異常がある箇所を調べる心電図や心エコー、動脈硬化の危険因子を調べる血液検査がまず行われる基本的な検査です。そのうえで、CT検査やカテーテル検査などで画像を撮影し、冠動脈の狭窄や詰まり具合を調べます。一刻を争う急性心筋梗塞では検査と治療を同時進行します。

治療法は薬物・カテーテル・手術の3つ

薬物療法・カテーテル治療・外科手術の3つの中から選びます。症状が比較的安定している狭心症は薬物療法で経過を観察します。狭窄が重度な狭心症や一刻も早い血流回復が必要な急性心筋梗塞はカテーテル治療による冠動脈の拡張を検討します。狭窄部が複数ある場合やカテーテル治療による改善が難しい場合は、冠動脈バイパス手術(血管をつなぐ手術)を行います。
虚血性心疾患の3大治療法 狭窄の程度などによって判断
薬物療法
発作の予防や鎮静、動脈硬化の
進行防止などを図る薬を使用
カテーテル治療
バルーンやステントなどを
使って血管を広げる
外科手術
血管をつなぐ
冠動脈バイパス手術等

治療・リハビリは長期に及ぶ可能性

入院・手術費用だけでなく、長期にわたる通院や投薬治療が必要なため、継続的に費用がかかります。
虚血性心疾患を一度発症したら、仮に手術などによる治療が成功しても、原因となった動脈硬化が完治するわけではありません。このため、次の発作に備えたり、発作を予防したりするための服薬や生活習慣の改善を長期にわたって続ける必要があります。心機能や運動能力を回復させるための心臓リハビリも生涯続ける覚悟が必要です。
虚血性心疾患の治療期間
虚血性心疾患の治療期間

出典:日本生命調べ 2020年度「インターネットアンケート」の調査結果から計算

急性心筋梗塞に備えておきたい金額の目安
急性心筋梗塞に備えておきたい金額の目安

出典:【治療費】ニッセイ基礎研究所「2021年度3大疾病への備えと治療の実態に関する調査」
【交通費・外食費用】日本生命調べ 2022年度「インターネットアンケート」の調査結果から計算

*高額療養費制度を利用した場合は利用後の金額

監修:公益財団法人日本生命済生会日本生命病院
生24-3581,営業企画部
ページtopへ

保険を検討中のお客様

Copyright © 日本生命保険相互会社