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役立つ医療情報 メディカルレポート

Vol.10 肺がんNo.2 〜早く見つけて治療〜

(2) 肺がんの診断と治療

肺がんの症状

肺がんの症状としては、咳、痰、血痰、呼吸困難、胸や肩の痛み、顔のむくみ、声がれなど、がんの発生する場所や進展度によってさまざまです。痛みや頭痛、麻痺など、転移した臓器、特に骨や脳の障害から症状を起こしてくることもあります。無症状で血液検査や胸部X線の異常を指摘され、肺がんとわかる場合もあります。

肺がんの検査

肺がんが疑われた場合、まず行われるのは胸部X線検査です。簡便な検査ですが、がんが小さいと分かりにくい場合があり、また心臓に重なるなど、死角になる部分があってがんがかくれることがあります。そこでよりくわしく調べるため、肺がんが疑われるほとんどのケースで胸部CTスキャン検査も行われます(図4)。

(図4) 胸部X線検査(左)では心臓の後ろにかくれてみえにくいがん(黒矢頭)が、横断面を撮影する胸部CT検査(右)でははっきりとみえる(白矢頭)。

胸部X線やCT検査で肺がんを疑った場合、診断のために次に行なわれる重要な検査が病理検査です。痰や、呼吸器内視鏡(図5;気管支鏡)でとった組織片の中にがん細胞があるかどうかを顕微鏡でみて調べます。がんと病理診断されたら、小細胞がん、腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんのどのタイプの肺がんなのかも判断します。

(図5)気管支鏡
口や鼻から挿入し、気管支の中を観察したり、肺や気管支の組織、細胞や細菌をとって調べるための内視鏡です。

病理検査でがん細胞をみつけた時点で、肺がんの診断が確定します。しかし検査はこれでおわりではありません。がんは転移を起こして広がってゆくため、他の臓器も調べる必要があります。腹部CTスキャン検査、骨シンチグラフィー検査、脳MRI検査などの検査で、肝臓や骨、脳などへ転移していないかを調べます。最近では、がん細胞がたくさんの糖をとりこむことを利用したPET/CTという新しい検査で全身をスキャンし、転移を調べられるようになってきました。これらの検査で最終的に、肺がんの進行度をあらわす病期が判断されます。病期は、がんが局所にとどまるものから他の臓器に転移したものまでを広がりにより分類するもので、1期から4期まであります。他の臓器に転移があると、がんの大きさや数にかかわらず4期になります。

肺がんの治療

治療は、組織型が小細胞肺がんか非小細胞肺がんかによって異なり、さらに病期によっても異なります。どちらのがんでも1期なら外科手術で切除しますが、進んだ病期では手術ができなくなります。特に小細胞肺がんでは、2期以上になるともう手術でとりきることはできなくなります。がんの治療が進歩した現在でも、もっとも確実な肺がん治療法は外科切除であり、早期に発見することが特に大切です。

肺がんが広がって手術ができない場合でも、転移が近くのリンパ節までにとどまっている場合には、放射線治療をおこないます。がんに放射線をあててがん細胞を死滅させる治療ですが、皮膚やがん周辺の正常な肺組織にも放射線があたり、皮膚炎や肺炎などの合併症が問題となります。

外科手術や放射線治療以外に、抗がん剤による治療も行なわれます。残念ながら、外科手術や放射線治療をせずに肺がんを完全に治してしまう抗がん剤はありません。しかし、患者さんの生存期間を延ばすことができるため、特に進行期では抗がん剤を用いた治療が行なわれます。抗がん剤の開発は日進月歩で進んでおり、特筆すべきはこの15年間に分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬とよばれる、非小細胞肺がんに使用できる新薬が次々と登場したことです。

新しい抗がん剤-分子標的治療薬

イレッサ内服前 2ヶ月後 2年後

(図6)イレッサの内服で肺腺がん(心臓周囲の白い影)が消失した59歳女性

従来抗がん剤といえば、殺細胞薬とよばれ、がん細胞のように増殖の早い細胞を区別なく死滅させてしまう薬でした。 しかし増殖の早い正常な細胞、特に赤血球や白血球をつくるもとになる骨髄の細胞にもダメージを与えてしまう強い副作用が問題点でした。がん細胞によく効いて、正常細胞にはなるべく影響しない抗がん剤の登場が望まれていたわけですが、最近の医学の進歩で、肺がん細胞に起こっている重要な遺伝子変異が次々と明らかにされました。

そのひとつが、上皮成長因子受容体(EGFR)とよばれるタンパクの遺伝子変異です。このEGFRタンパクの機能をおさえる内服薬ゲフィチニブ(商品名イレッサ)が、世界に先がけて平成14年から日本で使えるようになりました。
イレッサは、EGFR遺伝子変異のある肺腺がんの患者さんの生存期間を延ばすことが明らかとなり、長期間生きながらえる患者さんもあらわれるようになりました(図6)。イレッサのようにがん細胞の異常タンパク(分子)の機能を抑制する抗がん剤は、従来の殺細胞薬と区別され、分子標的治療薬と呼ばれます。

イレッサに続いて、類似の分子標的薬エルロチニブ(タルセバ)も発売されました。さらに最近では、やはり肺腺がんにEML4-ALKという別の遺伝子変異のあることが日本人研究者によって明らかにされ、クリゾチニブ(ザーコリ)、アレクチニブ(アレセンサ)といった薬が使えるようになりました。
これらの分子標的治療薬は、重要な遺伝子に変異が起きて発生した肺がんに大きな効果をもたらします。しかし一方、副作用がないわけではありません。皮膚や肝臓、肺などに副作用が起こりえます。また分子標的治療薬を用いても肺がんは完全に治癒するわけではなく、いずれ再発することもわかりました。EGFR遺伝子変異のある肺腺がんには最初イレッサが効きますが、イレッサが効かなくなるような新たな遺伝子変異を起こしたがん細胞が現われるのです。EML4-ALK遺伝子変異のある肺腺がんには最初ザーコリが効きますが、やはりザーコリが効かなくなる遺伝子変異が起こり再発します。最近ではこれら再発した肺がんに効果のある別の薬も開発されました。例えばイレッサやタルセバが効かなくなった肺がんに効果ある分子標的治療薬として、オシメルチニブ(タグリッソ)が平成28年から使えるようになっています。

新しい抗がん剤-免疫チェックポイント阻害薬

分子標的治療薬はEGFRやALKなどに遺伝子変異が明らかな一部の肺腺がんには効果がありますが、遺伝子変異がわからない残りの腺がんや、扁平上皮がん、小細胞がんには効きません。これらの肺がんには従来の殺細胞薬を主体にした抗がん剤治療が行われてきましたが、平成27年から画期的な新薬が使えるようになりました。免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれるニボルマブ(オプジーボ)は、がん細胞を排除する免疫機能を増強する新しい抗がん剤です。遺伝子変異が蓄積しがんになりかけた細胞は、周囲の免疫細胞によって通常は排除されます。しかしがん細胞は免疫細胞のPD-1というタンパクを介してその機能を抑えてしまう、つまり自分が排除されないように免疫細胞に信号を送っていることが日本人研究者によって明らかにされました。この信号をブロックして逆に免疫細胞の排除機能を増強させる抗体薬がオプジーボです。現時点で非小細胞肺がん、そして肺がん以外でも悪性黒色腫や腎細胞がん、リンパ腫への使用が認められており、さらに他のがんへの使用をめざした臨床試験がどんどん進められています。オプジーボに続いて、同様の免疫チェックポイント阻害薬であるペムブロリズマブ(キイトルーダ)も発売され、非小細胞肺がんへの効果が期待されています。
免疫チェックポイント阻害薬はがんの免疫療法薬としてはなばなしく登場しましたが、一方で非常に高価な薬のため医療費を高騰させるとして社会問題化しました。そこで誰でも使えるわけではなく、PD-1を介してがん免疫機能が落ちてしまっているがん患者さんに限って使用しましょうというガイドラインが平成29年に厚生労働省から出されました。

肺がん治療-今後の展望

分子標的治療薬をはじめとする新薬の登場により、肺がんの抗がん剤治療は大きく進歩しています。しかしすべての肺がん患者さんに一様に効くわけではなく、特定の組織型や特定の遺伝子変異、あるいはがん免疫機能の低下がある場合に限られるなど、抗がん剤によって効果の期待できる患者さんは異なります。これからの抗がん剤治療は、どの患者さんにどの薬が効くのか、遺伝子変異やがん免疫機能などをくわしく調べることで、もっともよい個別化治療を選択する時代になります。
医学の進歩によりがんの遺伝子変異や免疫異常が明らかにされ、新薬が続々と登場しています。これら新薬による治療で、次々と遺伝子や免疫の異常を起こしてふえてゆく肺がんを、もぐらたたきのようにおさえこむことができます。しかしまだ完全にがん細胞をなくしてしまうほどの薬はできていません。すなわち、抗がん剤治療だけではいずれ肺がんは再発します。最良の肺がん治療はやはり外科切除であり、早期に発見することが肝要です。

執筆者

立花 功(たちばな いさお)

公益財団法人日本生命済生会付属日生病院
副院長 内科統括兼総合内科部長
日本内科学会認定医・指導医
日本呼吸器学会専門医・指導医
日本呼吸器内視鏡学会器官支鏡専門医・指導医