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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第68回 どう活かす「ふるさと納税」142億円

2015年10月1日

日本の寄付の現状

 これまで日本の寄付市場は、アメリカやイギリスと比較すると、法人寄付額に比べ個人寄付額の少なさがひとつの特徴でした。2004年の日本の寄付総額6,008億円のうち、全体の75.4%に当たる4,532億円が法人寄付で、個人寄付はその3分の1ほどです。しかし、日本でも近年では個人寄付が増加し、法人寄付に比べ遜色のない規模になっています。

  「寄付白書2013」(日本ファンドレイジング協会発行)によると、2009年から11年の個人寄付額は5,000億円程度で推移しており、12年には6,931億円に上っています。11年は東日本大震災が発生し、震災関係の個人寄付が別途5,000億円もあります。一方、法人寄付は6〜7,000億円程度で推移しており、2012年の法人寄付額は6,755億円になっています。12年の個人寄付額の内訳をみると、全体の33.0%が「宗教関係」で最も多く、次いで「国際協力」と「緊急災害支援」が各々9.6%、「教育・研究」8.5%です。

図表1 日本の寄付額の推移

(資料) 日本ファンドレイジング協会「寄附白書2013」より作成
(注) 2012年法人寄附額は、国税庁「会社標本調査」平成24年度分より

図表2 個人寄付の内訳

(資料) 日本ファンドレイジング協会「寄附白書2013」より作成

新たな個人寄付の手法

 近年、個人寄付が増加している背景には、ICT(情報通信技術)を活用した個人が手軽に利用できるオンライン寄付手法の開発があります。代表的な手法としては、各種カードのポイント還元寄付、ウェブサイトからのクリック寄付やツイート数に応じたツイート寄付、インターネットで不特定多数に呼びかけるクラウドファンディングなどがあり、消費者行動に企業の協力を取り込んだ寄付の仕組みも増えています。

 クラウドファンディングとは、インターネットを介して不特定多数の個人から資金を集めるもので、設定した募集期間内に目標金額を調達できればプロジェクトが成立します。国内には40余りのクラウドファンディングサイトがあり、起案者はプロジェクト成立時に通常10〜20%程度の手数料をサイト運営者に支払います。

 アメリカのクラウドファンディングサービスの市場規模は、2014年で1兆4,000億円に上ると言われています。11年に導入されたばかりの日本では、15年6月現在で累計支援額は33億円程度ですが、その金額は年々急増しています。

 クラウドファンディングは支援者へのリターンにより、寄付型(リターンなし)、投資型(金銭的なリターン)、購入型(金銭以外の物品やサービスのリターン)に分類されますが、今年5月からは金融商品取引法が改正され、出資と引き換えに未上場株を提供する「株式型」も解禁されています。近年、よく話題になっている「ふるさと納税」も、多くは地方自治体が行う一種の購入型クラウドファンディングと言えます。

ふるさと納税

 最近、地方創生が重要な政策目標に掲げられ、その実現手段として「ふるさと納税」が注目を集めています。「ふるさと納税」とは、都道府県や市区町村など地方自治体に対する寄付金から2,000円を超える部分について一定限度額まで税額控除される制度です。つまり納税者が生まれ育ったふるさとを支援するなど、自分の意思で応援する自治体を選択できる制度なのです。

 「ふるさと納税」は2009年度に始まり、初年度は約3万人が73億円の寄付を行い、その後、寄付人数も金額も増加しており、14年度は13万人による142億円の寄付がありました。特に、東日本大震災が発生した翌年の12年度は74万人が649億円を寄付しています。15年度からは確定申告不要で控除が受けられる「ふるさと納税ワンストップ特例」という制度も創設され、今後、一層の寄付額増加が見込まれます。

 各々の地方自治体は、「ふるさと納税」への返礼品としてご当地の特産品を寄付者に贈るなど創意工夫を凝らしています。「ふるさと納税」の返礼品サービスを提供する大手百貨店や大手ネット通販で「ふるさと納税」ができるサイトなども現れています。東京都墨田区では、16年度に開館予定の『すみだ北斎美術館』の建設費の一部を「ふるさと納税」の寄付で捻出し、美術館や地元への親しみを創出しようとしています。少子高齢化と人口減少が進展する中で、地方が独自に活性化を図る地方創生に向けて、「ふるさと納税」が今後どのように活かされるか期待されます。

図表3 ふるさと納税額等の推移

(資料) 総務省「ふるさと納税ポータルサイト」より作成
(注) 2012年度は、東日本大震災の復興支援に向け、「ふるさと納税」が649億円に上りました。
そのため、上記グラフからは12年度の実績値は除外しています。

(ニッセイ基礎研究所 土堤内 昭雄)

筆者紹介

土堤内 昭雄(どてうち あきお)

株式会社ニッセイ基礎研究所 社会研究部 主任研究員。
研究・専門分野:少子高齢化・家族、市民社会・NPO、都市・地域計画