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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第59回 給与明細の数字はプラス!なのに実質賃金はマイナス2.8%??(2014年10月)

2015年1月1日

給与明細の数字は増えているが...

 アベノミクスによる円安株高などを背景に、大企業を中心に企業業績が回復したことで、従業員の給料を増やす企業が多くなりました。2014年春の賃金交渉・協議(春闘)では、政労使会議(※1)の合意を受け大企業の約9割が賃上げを行っています。基本給を底上げするベースアップに踏み切った企業も多かったため、経団連(※2)の調査では賃金上昇率が2.28%と15年ぶりの高い水準となりました。

 しかし、皆さんも「家計は楽になっていない」という論調のニュースをしばしば見ているのではないでしょうか。

 それは円安による輸入品価格の上昇や消費税率引き上げなどの影響を受けて、食料品から日用品まで“モノ”の値段(物価)が上がっているからです。身近な例をあげると、昨年12月に吉野家は牛丼並盛を300円から380円へ値上げを行っています。日清食品は今年1月から即席袋麺・即席カップ麺などの一部の商品を約5〜8%程度値上げすると発表しています。

賃上げと物価の関係

 賃上げと物価の関係について考えてみましょう。仮に2013年の給料が10,000円だったとします。2014年までに給料が2%上昇したとすると10,200円になります。一方、同期間に10,000円の物の値段が4%上昇していたとすると10,400円になりますから、2014年に同じものを購入しようとすると実は200円不足します。この場合、実質的には給料は上がっていない、むしろ下がっていることになるのです。つまり家計が楽になったかどうかは賃金の上昇分だけなく、物の値段(物価)がどれだけ上がったかによっても左右されます。このため実際の家計の購買力(※3)を見るには、給与明細の数字(=名目賃金)だけでなく、名目賃金から物価上昇分を割引いた実質賃金を確認することが重要です。

図表1  物価上昇が賃金上昇を上回る場合のイメージ

実質賃金は16カ月連続マイナス

 厚生労働省が発表している毎月勤労統計をみると、名目賃金上昇率つまり給与明細の数字は14年3月から14年10月(※4)まで8カ月連続でプラスが続いています。しかし実質賃金上昇率は、物価上昇率が賃金上昇率を上回っているため、2014年10月では前年比−2.8%(※4)、2013年7月から16カ月連続のマイナスとなっています。

 家計に「生活が楽になった」「消費を増やそう」と思ってもらうには、実質賃金がプラスになることが重要です。また、消費はGDPの6割を占め、景気の動向を大きく左右します。

 2015年の春闘に向けて、政府は政労使会議を通じ増益企業に対して賃上げを要請する動きをみせています。こうした動きの中で賃金上昇率が物価上昇率を上回るのか、消費税率引き上げ後、景気の立ち上がりが遅れているだけに注目されます。

図表2  賃金と物価の上昇率推移

(注) 実質賃金=名目賃金÷消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)、毎月勤労統計は14年10月速報ベース
(資料) 厚生労働省「毎月勤労統計」、 総務省統計局「消費者物価指数」

(※1) 政府、労働者、経営者の代表が賃金や雇用のあり方や包括的な課題解決に向けた共通認識を得るための会議。
(※2) 正式名称は「日本経済団体連合会」。経済同友会、日本商工会議所と並ぶ「経済三団体」の一つで、東証一部上場企業を中心に構成される。
(※3) 貨幣一単位で購入できる消費の量。
(※4) 厚生労働省「毎月勤労統計2014年10月速報」による。本稿執筆時点において発表されている最も新しいもの。

(ニッセイ基礎研究所 薮内 哲)