1. 日本生命保険トップ
  2. 知る・楽しむ
  3. 新社会人のための経済学コラム
  4. 第54回 女性の活躍と103万円・130万円の壁

3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第54回 女性の活躍と103万円・130万円の壁

2014年8月1日

女性の活躍のために

 6月、安倍政権は新しい成長戦略を発表しました。その柱の一つとして「女性の活躍促進」を掲げています。これは働く意欲ある女性が出産・育児・家事などで仕事をあきらめてしまうことがないよう制度や環境を整えていこうというものです。その中で今回は税と社会保障制度における103万円と130万円の壁について取りあげます。女性が働くうえで103万円と130万円はそれぞれどういった意味を持つのでしょうか。

103万円・130万円の壁とは

 ここでは夫が会社で働いていて、妻は夫の被扶養者としてパート等で働いている世帯で考えてみます。まず夫が働いて得た収入には所得税がかかります。ただ、扶養している配偶者(この場合、妻)がいますので配偶者控除として38万円の所得控除が適用され、所得税が少なくなります。これは養う家族がいればその分だけ所得税を少なくしようという仕組みです。(ちなみに子どもを扶養している場合、一人につき38万円の扶養控除も適用されます。)

 しかし、妻がいれば必ず配偶者控除を受けられるわけではありません。その要件の一つが妻の年収が103万円以下であることなのです。夫に所得税率20%が適用される場合、年収103万円以下の妻を扶養していると7万6000円分(※1)所得税が少なくなりますが、妻の年収が103万円を超えると、この配偶者控除は適用対象外になります。ただ、配偶者特別控除が適用されるので、段階的に少なくなりますが141万円までは所得控除が適用されます。また、妻の年収が103万円(※2)を超えると妻の収入にも所得税がかかります。これらのことから103万円は収入の一つの壁として意識されているのです。

図表1 被扶養者のパート収入と税(一例)

(資料) 厚生労働省雇用政策研究会資料を元に作成

 加えて、会社にも国の制度と同様に養う家族がいればその分だけ家族手当(配偶者手当)を支給するところがあり、約6割の企業が家族手当を制度として導入(※3)しています。その要件を先の配偶者控除の対象かどうか、つまり妻の年収が103万円で決める企業が多いのです。その平均支給額は月額11,267円(※4)で年間約13万円になります。つまり、家族手当のある企業では妻の年収が103万円を超えた場合、会社からの支給が平均して約13万円少なくなるのです。

 一方130万円の壁とは社会保険料(国民年金や健康保険)を支払う必要が生じる基準です。妻は夫の被扶養者である場合、社会保険料の支払いは必要ありません。しかし妻の年収が130万円を越えると夫の社会保険の扶養からはずれ、妻自身で社会保険料の支払いが必要になります。例えば、妻が年収132万円になると年間約25万円(※5)の社会保険料の支払いが必要となるのです。

図表2 被扶養者の厚生年金・健康保険適用有無

(資料) 厚生労働省雇用政策研究会資料を元に作成

 上記のように妻の年収が103万円と130万円を超えると所得税負担の増加や社会保険料の支払いが必要となることで、年収が増えたにもかかわらず世帯の手取りが少なくなってしまうという逆転現象が生じる場合があります。このため、もう少し働ける状況でも年収103万円や130万円を超えないように労働時間を調節するといったことが起こるのです。

図表3 妻の収入と世帯収入の関係(イメージ)

(注) 支給額や控除額などの違いから詳細は世帯によって異なる
(資料) 厚生労働省雇用政策研究会資料を元に作成

中立的な制度の見直しが必要

 配偶者控除といった制度は「夫が外で働き、妻は家で家事・育児を担う」ということが一般的だった社会では理にかなっていました。しかし、現在では共働き世帯が増加しています。また、これからの日本は少子高齢化が一層進んでいき、働き手もどんどん少なくなっていきます。日本の経済や社会保障制度を支える人材が少なくなっていく中、女性の就労拡大はそれらを補う可能性を秘めています。女性パートタイム労働者の73.1%(※6)を配偶者が占めていますが、103万円や130万円の壁を意識して働く時間を調節してしまうことがないように制度の見直しが必要でしょう。

 一方103万円と130万円を超えていない人の中でも、子育てや介護などで働く余裕がないという人もいます。単純に配偶者控除といった制度を廃止することになれば、そういった世帯にとっては増税と変わりなく家計負担が増すことになります。6月に発表された安倍政権の成長戦略において年末にかけて制度の見直しに着手することになっていますが、働いている女性がいる世帯といない世帯の双方に配慮した中立的な制度の見直しが求められます。

 これまで税と社会保障制度に関わる二つの壁について言及してきましたが、女性の活躍を後押しするという意味では問題の一つにすぎません。例えば、家事や育児で仕事を制限しなければならない人のために、子どもを預けられる保育園の数を増やすことや企業の長時間労働を見直し男性も家事や育児へ参画していくことは、女性の働きやすい環境を整えることになります。女性の活躍促進に向けた改革はまだ始まったばかりです。今後も社会全体で総合的な取り組みが必要です。

(※1) 38万円(配偶者控除)×20%(所得税率)=7万6千円
(※2) 給与所得控除65万円と基礎控除38万円が適用されるため103万円までは所得税がかからない。
(※3) 東京都産業労働局「平成24年版中小企業の賃金・退職金事情」を参照。
(※4) 平均支給額は調査産業計の配偶者(第1扶養)の場合。(※2)と同参照。
(※5) 国民年金第1号被保険者の保険料は(月額)15,250円。平成26年全国健康保険協会、東京都で年収132万(月収11万)の場合、健康保険料は(月額)5,483円(介護保険第2号被保険者に該当しない場合)となる。
(※6) 厚生労働者「平成23年パートタイム労働者総合実態調査」を参照。

(ニッセイ基礎研究所 薮内 哲)