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3分でわかる 新社会人のための経済学コラム

第84回 目標は2℃未満!2020年以降の温暖化対策、「パリ協定」とは

2017年2月1日

異例のスピード発効

 2016年11月4日、地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」が発効しました。

 2015年12月の採択から1年以内という異例のスピード発効で、日本は批准(※1)が間に合いませんでした。過去の温暖化対策の国際合意「京都議定書」の場合、採択から発効まで7年もかかりました。1年での発効がいかに早いかが分かります。

 パリ協定は、世界共通の長期目標と、新興国も含めた全ての参加国が共通で取組む枠組みを定めており、画期的な内容といわれます。そんなパリ協定に至るまでの地球温暖化問題への取組を整理してみましょう。

地球温暖化対策の始まり

 地球温暖化が意識され始めたのは、1980年代のことです。当初は科学者による研究が中心でしたが、徐々に政治も巻込み、大きな動きになりました。

 ひとつの転機が「温暖化防止のため大気中の温室効果ガス(二酸化炭素など)の濃度を安定化させること」を目的とした気候変動枠組条約です。1992年の「地球サミット」で採択され、各国が協力して地球温暖化対策に取組むことが確認されました。この条約に基づいて、1995年から毎年開催されているのが、気候変動枠組条約締約国会議、通称COPです。

 1997年、3回めの会議COP3の議長国は日本。会議は京都で開催され、「京都議定書」が全会一致で採択されました。

京都議定書

 京都議定書は、史上初めて、先進国の温室効果ガス排出削減目標を定めました。2008年〜2012年(第一約定期間)の5年間で1990年に比べて日本は6%、米国は7%、EUは8%などの削減を明確に規定する内容でした。目標達成に利用できる措置として、京都メカニズムと呼ばれる市場メカニズム(排出削減量を国際的に取引する「排出量取引」など)も創設されるなど、世界全体での削減に向け大きな一歩を踏み出しました。

 しかし、先進国にしか削減義務がないルールに課題がありました。

 2001年に、米国が京都議定書を支持しない立場を表明しました。京都議定書の削減取組は米国経済にマイナス影響を与える懸念があるうえ、排出量の多い新興国に削減義務がない点で欠陥があるとして批判しています。結局米国は不参加となり、京都議定書は米国抜きでの排出量削減取組となりました。米国の不参加で、京都議定書の発効も先延ばしになり、2004年秋のロシア批准を経て、採択から7年後の2005年に発効しました。

 京都議定書は2012年までのルールでしたが、2013年以降のルール作りを2005年には開始しなければならないことが定められていました。そのため、発効と同時に、「ポスト京都議定書」の交渉が始まりました。

 ここでも先進国と新興国の利害関係が課題となります。先進国は新興国も含めた実効的な枠組みを重視しましたが、新興国が支持したのは、京都議定書を延長して第二約定期間(2013年〜2020年)を設定し、引続き先進国のみに削減義務を課す案でした。

 しかし、世界の排出量シェアは大きく変化していました(図表1)。経済成長による新興国の排出量増加がその原因です。第一約定期間の目標を達成した日本も、「公平性、実効性に欠ける」として、京都議定書の延長に反対しました。

図表1 CO2排出量の変化(1997年→2010年)

(資料) 経済産業省 , IEA CO2 emissions from fuel combustion 2012

 2011年、京都議定書の第二約定期間設定が決まりましたが、日本など複数の国が不参加となり、参加国がカバーする排出量は、世界全体の15%にまで減少しました。不参加の国にも別の目標・行動ルールが設定されましたが、 全ての目標を併せても、温室効果ガスの排出削減効果が低いことが指摘され、全ての国が参加する新たな枠組みが必要だと強く認識されるようになり、新枠組み構築の機運が高まりました。

パリ協定

 こうした経緯もあり、2015年、フランス・パリで開催のCOP21において採択されたのが、2020年以降の新たな国際枠組み「パリ協定」です。

 パリ協定では、世界の平均気温の上昇幅を、今世紀末時点で産業革命前から2℃未満に抑えるという世界共通の長期目標(2℃目標)が定められました。(1.5℃未満に抑えようとする努力目標にも言及しています。)2℃目標達成には、今世紀後半の温室効果ガス排出を実質ゼロにする必要があり、非常に野心的な内容です。

 また、2℃目標達成をより確実にするプロセスも規定されました。先進国・新興国関係なく、参加各国は、温室効果ガス排出削減の自主計画を定め、国内対策を実施することが求められます。先進国のみに目標を課した京都議定書とはこの点で大きく異なります。自主計画目標の達成自体は義務付けられておらず、未達成でも罰則はありませんが、目標達成に向けた取組状況は厳しくチェックされます。そして、5年ごとに計画が見直しされ、原則それ以前より高い目標の設定が求められます。このプロセスを通じて、目標を一層高めていく厳しい内容です。

 京都議定書の市場メカニズムも更に発展し、JCM(二国間クレジット制度)という新制度に言及があります。自国の持つ、優れた低炭素技術・製品・システム・サービス・インフラを普及することを通じて、途上国において排出量を削減すれば、その定量効果を、自主目標の達成に活用できるという内容です。この制度は日本の提案で盛り込まれました。

発効までの動きと今後への期待

 2016年4月には175カ国がパリ協定に署名し、地球温暖化防止への国際協力の意思が確認されました。9月には、米国と中国の同時批准で協定発効への動きが加速しました。発効条件は、批准が「55カ国以上」かつ「世界の排出量の55%以上」でしたが、10月5日時点で74カ国(世界の排出量の58.82%)が批准し、11月のスピード発効に至りました。批准が遅れた日本は、パリ協定発効と同月のCOP22にはオブザーバー参加となりました。ルール作りへの参加に出遅れたとの批判もあります。また、COP22は環境ビジネスの見本市のようだったともいわれており、今後、環境ビジネスの盛りあがりが期待されています。

 パリ協定のルールは、2018年のCOP24での完成が予定されています。今年はそのためにも重要な1年です。この、史上初の大掛かりな枠組みは前進するのでしょうか。注目のテーマです。

(※1) 批准とは、署名により内容が確定した条約に対する、当事国における最終的な確認・同意の手続きのこと。日本では内閣が行い、国会の承認を必要とする。

(ニッセイ基礎研究所 牧野 敬一郎)

筆者紹介

牧野 敬一郎(まきの けいいちろう)

株式会社ニッセイ基礎研究所、経済研究部、研究員
研究・専門分野:日本経済