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第83回 出産離職でマイナス2億円!?女性の生涯所得は働き方で大きな差

2017年1月1日

働き方による生涯所得の違い

 昔から日本では、結婚や出産を機に退職し、子育てが落ち着いてからパートなどで再就職するという女性が多く、「M字カーブ」問題が指摘されています(※1)。でも、仕事をいったん辞めてしまうと、働き続けた場合と比べて、生涯所得は2億円も少なくなることをご存知でしょうか?

 大学卒女性の生涯所得を推計すると、同じ企業で正規雇用者として働き続けた場合は約2億6千万円ですが(図表1のA)、出産退職して子育てが落ち着いてからパートで再就職した場合は約6千万円となります(A-R-P)。一方で、二度出産し、それぞれ1年間の育児休業後にフルタイムで復職した場合は約2億3千万円(A-A)、時間短縮勤務制度を利用した場合は約2億1〜2千万円(A-T1・T2)となります。

図表1 大学卒女性の働き方別の生涯所得 (a)生涯所得を推計した働き方ケース ケースAは正規雇用者・出産などの休業なし・フルタイム勤務。 ケースA-Aは正規雇用者・育児休業2回・フルタイム勤務。 ケースA-T1は正規雇用者・育児休業2回・第二子が3歳未満まで時間短縮勤務。 ケースAT-2は正規雇用者・育児休業2回、第二子が小学校入学前まで時間短縮勤務。 ケースA-R-Pは、正規雇用者・第一子出産で退職・第二子小学校入学後にパート勤務。 ケースA-Rは正規雇用者・第一子出産で退職・第二子出産後も非就業。 ケースBは非正規雇用者・出産などの休業なし・フルタイム勤務。 ケースB-Bは非正規雇用者・育児休業2回・フルタイム勤務。

図表1 大学卒女性の働き方別の生涯所得 (b)生涯所得の推計値 ケースAは生涯所得が2億3,660万円、退職金が2,156万円、合計2億5,816万円。 ケースA-Aは生涯所得が2億1,152万円、退職金が1,856万円、合計2億3,008万円。 ケースA-T1は生涯所得が2億214万円、退職金が1,856万円、合計2億2,070万円。 ケースA-T2は生涯所得が1億9,378万円、退職金が1,856万円、合計2億1,234万円。 ケースA-R-Pは生涯所得が5,809万円、退職金が338万円、合計6,147万円。 ケースA-Rは生涯所得が3,457万円、退職金が338万円、合計3,795万円。 ケースBは生涯所得が1億1,567万円(退職金なし)。 ケースB-Bは1億1,080万円(退職金無し)

(注) 推計の詳細条件は、久我尚子「大学卒女性の働き方別生涯所得の推計−標準労働者は育休・時短でも2億円超、出産退職は△2億円。」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2016/11/16)参照。
(資料) 厚生労働省「平成27年賃金構造基本統計調査」、及び「平成25年就労条件総合調査」より筆者作成。

 つまり、いったん仕事を辞めてしまうと、マイナス2億円という大きな機会損失になりますが、育児休業や時間短縮勤務制度を利用して働き続ければ、生涯所得は2億円を超えるのです。働く目的はお金だけではありませんが、子供により良い環境を与えられる可能性などを考えると、2億円という金額は一考に価するのではないでしょうか。

 ただし、この推計では、育児休業からのスムーズな復職を想定しています。しかし、実際には仕事と家庭の両立負担は大きく、職場と家庭双方の両立支援環境が充実していなければ、以前と同じように働くことは難しいでしょう。このほかにも、育児休業からの復職者に対する評価制度(非休業者との相対評価をどうするか)や女性自身のモチベーションの変化(仕事や家庭の優先順位の変化)など、いくつかの課題があります。

非正規雇用者の就業継続率

 一方で、長らく続く景気低迷により、非正規雇用者が増えています(※2)。非正規雇用者では正規雇用者より賃金水準が低いため、休業せずに働き続けても生涯所得は正規雇用者の半分にも届きません。また、正規雇用者の多くが育児休業を利用して働き続ける一方、非正規雇用者では育児休業利用が少なく、就業継続率も4分の1程度にとどまります(図表2)。

図表2 第1子妊娠前の雇用形態別に見た出産前後の妻の就業継続率、および育児休業を利用した就業継続率(%) 子の出生年が1985年〜89年の時、正規の職員の場合は40.7%(13.0%)、パート・派遣の場合は23.7%(2.2%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、72.7%(4.2%)。 1990年〜94年の時、正規の職員の場合は44.5%(19.9%)、パート・派遣の場合は18.2%(0.5%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、81.7%(4.3%)。 1995年〜99年の時、正規の職員の場合は45.5%(27.8%)、パート・派遣の場合は15.2%(0.8%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、79.2%(0.0%)。 2000年〜04年の時、正規の職員の場合は52.4%(37.5%)、パート・派遣の場合は18.1%(2.2%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、71.4%(2.5%)。 2005年〜09年の時、正規の職員の場合は56.5%(46.3%)、パート・派遣の場合は17.8%(4.7%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、71.1%(2.2%)。 2010年〜14年の時、正規の職員の場合は69.1%(59.0%)、パート・派遣の場合は25.2%(10.6%)、自営業主・家庭内従業者・内職の場合は、73.9%(8.7%)。

(注) ( )内は育児休業制度を利用して就業を継続した割合
(資料) 国立社会保障人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」から作成

 現在、政府では「働き方改革」にて、同一労働同一賃金など非正規雇用者の処遇改善、労働生産性の向上、長時間労働の是正といった議論が進められています。今後ますます共働き世帯が増える中では、女性の収入が世帯全体の経済状況に与える影響も大きくなるでしょう。雇用形態による不合理な待遇差の是正を望むとともに、結婚・出産・育児・介護などライフステージが変化しても働き続けたい者が働き続けられるように、労働環境が整備されることを期待したいものです。

(※1) 縦軸に女性の労働力率(15歳以上の人口に占める労働力人口)、横軸に年齢を取ってグラフを描くと、結婚・出産期に当たる年代で低下し、育児が落ち着いた年代で再び上昇するようなM字カーブを描く。第二次安倍政権以降の「女性の活躍促進」政策では「M字カーブの解消」が1つの目標となっている。
(※2) 総務省「労働力調査」にて、女性の雇用者に占める非正規雇用者の割合は、2000年から2015年にかけて、15〜24歳では42.3%→52.1%(+9.8%pt)、25〜34歳では32.0%→40.9%(+8.9%pt)。

(ニッセイ基礎研究所 久我 尚子)

筆者紹介

久我 尚子(くが なおこ)

株式会社ニッセイ基礎研究所、生活研究部 主任研究員
研究・専門分野:消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティング